今年の夏に出版され話題になった本があります。今もよく売れているようですね。
『人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている』です。
第1章から第5章までは、こちらで読むことができます。
社会心理学の分野で研究されている「ハロー効果」について、人生におけるその効果や利用方法を分かりやすく解説してくれます。
「ハロー効果」というのは、簡単に書いてしまうと、学歴や外見などにより思考の歪みが生じて、無意識に相手を高く評価するようになることです。いわゆる「認知バイアス」の1つで、「後光効果」や「光背効果」とも呼ばれます。
人生を成功に導くには、もちろん実力や運も大切ですが、その実力や運を何倍にも増幅させる「ハロー効果」がさらに重要であることが読めば分かります。
そんな、大学の教養課程で学んだ「ハロー効果」ですが、社会人としての経験を積んだ上で改めて接してみると、実体験としてすごく理解が深まります。
と同時に、世渡り上手な人や一角の成功を収めた人なんかを見ていると、当たり前のように、しかも無意識に「ハロー効果」を利用していることに気付きます。
フリーランサーとして「盛る」
かく言うボク自身も、航空機関連の開発、ハード/ソフト含めた技術的コンサルティングや技術動向の調査、プランニング、翻訳などの仕事にフリーランサーとして携わり、10 年以上もワーク&ライフを楽しめたのは、「ハロー効果」を無意識に利用できていたからなんじゃないかと思います。
もちろん、ある程度の実力は必要ですし、運が良かったとしか思えない場面もありますが、実力や運が他人のはるか上空を行くことなんて稀ですし、その場合の差別化に有効なのは、やはり「ハロー効果」しかない、とも言えます。
今風の表現では、「正しく盛る」ってことです。
と、このようなことを書いている時点で、すでに「ハロー効果」を利用しているわけですが、フリーランサーとして食べていくために「ハロー効果」をどのように利用してきたのか、無意識の海に潜って、来し方を振り返りつつまとめてみたいと思います。
「学歴」という勘違い
新卒に限らず、社会人としてある程度の年月が過ぎようとも、「学歴」は否応なくついて回ります。職歴と並んで、その人となりや属性を評価するのに分かりやすい指標だからです。
大学進学率が高くなればなるほど、たとえば「A大学に入るには、この程度の知識とこの程度の努力が必要」ということが分かる人が社会に増えるため、「A大卒」と言うだけで、「あぁ、この程度の知識を持ち、この程度の努力ができる人なのね」ということを理解してもらえるようになります。
高学歴な相手にとっては、たとえば「A大卒」と言うだけで信用を得やすくなるかもしれませんし、平均学歴の相手にとっては、「A大卒」と言うだけでアドバンテージを得やすくなる可能性もあります。人間というのは、悲しいかな出自を気にする生き物です。
なので、学歴がある人は、それを大いに利用すればよいわけです。
ただし、学歴というのは両刃の剣でもあります。有名大卒なのに仕事が全然できない人を見かけること、少なからずありますよね。学歴だけが高くて仕事ができないと、その学歴は往々にして、マイナス方向への倍数として機能することになります。
つまり、「学歴」という勘違いをプラスに利用できるか、あるいはマイナスにしかならないかは、使い方次第ということになります。
ところで、ボクは毎年のように、母校に寄付をしています(↓)。
「金欠の後輩を少しでも応援してあげたい」という純粋な気持ちもあるのですが、もう一方で、「学歴」という勘違いの威力を維持するための投資という側面もあります。
後輩の活躍で自分の出身母体がニュースに登場するようなことがあれば、「学歴」の威力は維持され、ボク自身の株も上がりますし、雑談のネタとしても結構使えたりします。微々たる取り組みですが、「後輩の支援」と「自己への投資」という一石二鳥なところが結構気に入ってます。
「多才」という勘違い
上にも書いたように、ボク自身は基本的に、機器開発、コンサルティングや技術動向の調査、プランニング、翻訳などの仕事に携わる「ポートフォリオワーカー」です。
「ポートフォリオワーカー」というのは、リスク分散を主目的として、さまざまな仕事・活動に同時並行で取り組む人を指し、こちら(↓)の書籍を発祥とする言葉だったと記憶しています。「パラレルキャリア(ダブルキャリア)」「複業」も同じような発想ですね。
さてさて、フリーランサーとして働く場合は、リスク分散として複数の仕事に携わるのが割りと当たり前の感覚になるのですが、1つの会社で本業だけに従事されている方々にとっては、まだまだ不思議な働き方に見えるようです。
「何でもできるんですね!」と声を掛けてくださるお客さんもいますが、こちらとしては食いっぱぐれないための必死の戦略であり、シナジー効果が期待できるからこそ色んな仕事に手を出している側面も大いにあります。
たとえば、開発のお手伝いをする中で、「翻訳なんかも手掛けてるんですよ」と匂わせておけば、何かの折に翻訳の仕事の照会を受ける可能性も出てきます。
クライアントが翻訳(和訳)を頼もうとしている案件は、新しい技術であったり、日本初上陸の技術であったり、注目を集め始めている技術であったり、クライアントが関心を持っている技術であったり、要は、かなり有望な技術である可能性が高いわけです。
そのような案件の翻訳を手掛けるということは、クライアントが興味を持つ新しい技術を学べるチャンスなわけです。しかも、お金をもらいながら、です。
そのような新しい技術を学べたら、今度はそれを開発の仕事にも生かせるわけで、シナジー感が半端ないことになります。
ただし、「学歴」と同じく、「多才感」もやはり両刃の剣です。
実際には大した多才でもなく、限られた時間の中で複数の仕事を必死に回しているに過ぎず、1つ1つの仕事に専業者ほど時間を掛けられるわけではありませんので、いくら結果を出そうとしても、当然ながら「深み」に欠ける部分が出てきます。
そういうところが気になるお客さんにとっては、「多才」が「胡散く才」に感じられ、多才であればあるほど、1つ1つの仕事に対する信頼性が損なわれるリスクがあります。
ですので、多才感を醸し出すにしても、シナジー効果が期待できそうな仕事をせいぜい1つか2つ「匂わす」程度にしておくのが良さそうです。それであれば、現業務が次の仕事につながる可能性を十分に確保しつつ、信頼性を損なうリスクも回避できます。
「学歴」と同じく、「多才」という勘違いをプラスに利用できるか、あるいはマイナスにしかならないかも、使い方次第ということになりますね。
「教養」という勘違い
最近、一部のインフルエンサーなどから クソ 不要扱いされている「教養」ですが、国際的なビジネスシーンのみならず、フリーランサーとして働く上でも、まだまだ有効な武器になると確信しています。
取引先の、特に年配の社長さんたちと話をしていると、彼/彼女らが如何に「雑談」好きであるかが分かります。
酒席か否かに関わらず、政治・経済からビジネス、科学・技術、スポーツ、エンタメ、社会学、哲学、人生論に至るまで、実にさまざまな話題を振ってきます。それらに応じるのも仕事の1つと考えていますので、こちらも普段から分野を問わず色んなことを吸収して、その日その場に備えるようにしています。
彼/彼女らは、そのような対話の中に登場するあらゆる事柄を結び付けて、新しいビジネスの種を見つけようといつも心掛けているのでしょう。
そして、このような社長さんたちは、記憶力も異常に優れている場合が往々にしてあります。
打ち合わせや雑談の中でこちらが何気なく発した内容を覚えていて、何カ月も経ってから、「そういえば、この前、こんなことも出来るって言ってましたよね?」と連絡が来ることも少なくありません。
こうやって、「教養」という勘違いが、新たな仕事へと実を結びます。
「見た目」という勘違い
一昔前、『人は見た目が9割』という本が流行りましたが、程度の差こそあれ、人間は見た目の影響をかなり大きく受けてしまいます。
並外れた実力の持ち主は別として、どんぐりの背比べ程度の実力差しかない状況で、見た目の良い人と悪い人が並んでいたら、やはり見た目の良い方に声を掛けたくなるのが人間の性でしょう。こればかりはどうしようもありません。
容姿にまったく自信のないボクですが、かと言ってビジネスチャンスを逃してしまうのも勿体ないので、それなりの「見た目」になるように、できる限りの努力はしているつもりです。
「人気」という勘違い
ポートフォリオワーカーとして最も気を遣うことに、スケジュール管理があります。
取引先が1つであれば、こちらの状況がすべて相手の手中にあるため、スケジュールの調整は比較的容易になりますが、取引先が複数の場合は、スケジュール管理がかなり煩雑になってしまいます。
おまけに、複数種類の仕事を手掛けている場合は、それぞれの仕事に要する日数を見積もるのに結構手間取る場合があります。その上、1つの仕事のスケジューリングを誤ると、すべての歯車が狂ってしまう可能性もあるわけで、かなりの綱渡り感があります。
ですので、よほど急ぎの案件でもない限りは、余裕を持ってスケジュールを組むのが常ですが、そこに意外な効果が潜んでいます。
お客さんと納期調整をしていた時、「やっぱり人気者はお忙しいですよね」と、本音のような皮肉のようなことを言われたことがあります。
こちらは、最短の納期を伝えていただけなのですが、「人気者」という見方もあるんだな、と思いました。
それ以来、ある程度以上の信頼関係を気付けている取引先には、あえて長めの納期を設定するようにしています。場合によっては、かなり長い納期を設定します。スケジュール管理がとても楽になる上、「人気者」感を醸すことができます。人気者につい声を掛けたくなるのも、人間の性だと思いますからね。
セコいやり方ではありますが、そもそも本記事の主題である、実力や運を増幅させる「勘違いさせる力」自体、セコい以外の何ものでもありませんから、今さらセコいだの何だの言っても仕方ありません。
ちなみに、長い納期ばかり設定している客先から、ごく稀に短納期の案件の相談があるのですが、「無理を承知でお聞きしますが・・・」と問い合わせてくる担当者に対して、意外にあっさりと「大丈夫ですよ!」と応える機会もなるべく設けるようにしています。
このようなちょっとしたやり取りの中で提供する「特別感」は、先方の心をグッと惹きつけるのに意外と役立ちます。ホント、セコいですね。
「ギャップ」という勘違い
上に書いた「納期設定」の話もそうですが、人間というのは、「ギャップ」に萌え~となることが割りと普通にあります。というか、「ギャップの中に生きている」と言ってしまって良いかもしれません。
誰しも、多かれ少なかれ、予想に反するプラス方向の「ギャップ」には、何となく惹かれるものですよね。
ですので、普段は長い納期設定をしているのに、短納期の案件の照会があった際には、たまにそれに応じることによって、プラス方向の「ギャップ」を生み出すようにしています。
また、普段は割りとマジメに仕事をこなす一方で、客先の飲み会に参加する機会などには、ネジを緩めて、努めて明るく盛り上げることに徹します(下ネタは、好き嫌いが分かれますし、セクハラにつながる可能性も大なので、頼るもんじゃないですね)。
「高価格」という勘違い
デフレがなかなか解消されませんが、一方で、割高な商品や高級なブランド品も売れていますね。特別感やストーリー性のある商品・サービスに、人はお金を出します。
フリーランサーも同じで、その人自身やその人が提供する商品・サービスに特別感やストーリー性があれば、多少高くても需要はあります。
そして、その「高価格」という事実自体もが、ある種の特別感となって、人を魅了する可能性があります。
ただし、ボクのような仕事で特別感やストーリー性を醸すのは、どちらかと言えば無理な話に近いので、そこは日々自己研鑽することで、実力でもって「高価格」という勘違いを生み出すしかありません。
「永続性」という勘違い
相手先が異なれば、仕事の進め方や納品物に求められる内容も当然ながら異なります。
付き合いが長くなればなるほど、(本当はダメなんでしょうけど)発注書や仕様書に書けない「暗黙の了解」のような部分も増え、本来属人的なフリーランスの仕事は、ますます属人的になっていきます。
そのような「暗黙」の部分は、相手が変わればまたイチから築き上げていかねばならず、両者にとってかなり面倒な作業となります。
付き合いが長くなれば、お客さんにとってフリーランサーというのは、知らず知らずのうちに、ものすごく「かゆい所に手が届く」存在となっていますので、そうそう簡単には手放せない存在となるわけです。
ですので、こちらもそれに応えるべく、決して「フリーランス辞めます」とは言わないことです。たとえその予定があっても、相手に迷惑が掛からないギリギリのタイミングまで口に出さないのがお互いのためでしょう。
「私は永遠に貴方のパートナーです」という勘違いほど、相手に安心と安寧を与えるものはないですね。それが、「永続性」という勘違いです。
まとめ : 最大の勘違いは「自分自身」
以上のように、実力よりも運よりも、フリーランスの人生を成功に導く「勘違い」には、たくさんの種類・要素があると思います。上に挙げたものなど、ほんの一例に過ぎず、世渡り上手な人や大きく成功している人には、それぞれ独自の「勘違いさせる力」がもっと色々あるはずです。
でも、最大の「勘違いさせる力」は、上に挙げたような「勘違いさせる力」を自分自身で信じて実行し続けることこそが、フリーランサーとして成功する道なんだ、と「自分自身を勘違いさせる力」なんじゃないかと思う今日この頃です。