
サラリーマンの共働き家庭で、「稼ぎの少ない方が家事・育児を多く担うべきか?」という論争をよく見聞きします。
稼ぎの少ない方が家事・育児を担うべきか?
これは、「労働」の対価として「金銭的報酬」を重視するのか「生きがい」を重視するのかで、Yes/No が分かれる問題です。
金銭重視なら「稼ぎの少ない方が家事・育児を多くやるべき」と考えがちでしょうし、生きがい重視なら「どちらも等しく生き甲斐を感じているのだから家事・育児も平等に」という考えに落ち着きそうです。
どちらの価値観を持っているかは人それぞれなので、どちらか一方が正解ということもなく、家事・育児の分担は夫婦間で話し合うしかありません。だから難しいのです。
専業シュフ家庭の場合
これが、専業シュフ(主婦 or 主夫)家庭ならどうでしょう?

普通に考えるなら、「シュフが家事・育児を100%担う」が答えでしょうし、それで納得しているシュフもたくさんいることでしょう。でもそれは、金銭重視的な考え方であり、「生きがい」が考慮されていません。もちろん、家事・育児に生きがいを感じる人も少なからずいるでしょうが、家事・育児は一般的に、パートナーぐらいしか評価者がおらず(しかも、なかなか良い評価をしてくれない)、生きがいを感じにくい労働です。
ですので、「金銭的報酬」と同じぐらい「生きがい」を求めて働きに出るシュフもたくさんいますよね。
この場合、パートナーがサラリーマンであれば、毎月の給料は基本的に一定ですから、少なくともシュフの収入が増えた分だけ、家事・育児の負担をパートナーに引き受けてもらっても普通は文句を言われないでしょう。生きがい重視のパートナーであれば、家事・育児の負担の半分(以上)を引き受けてくれる可能性だってあります。
いずれにしろ、世帯収入は増えることになります。
フリーランスの専業シュフ家庭の場合
これが、フリーランサーの専業シュフ家庭になると、少し事情が異なります。
ボクのフリーランサー経験から、ちょっと考えてみます。
- 子どもが3人いるので、それなりの稼ぎ
- 重視するのは「金銭:30%、生きがい:70%」てな感じ
労働の対価として、どちらかといえば金銭よりも生きがいを重視していますので、生きがいを感じることが難しい家事・育児をすべてツマに任せるのは悪いと思っており、それなりの時間を家事・育児に費やしてきたつもりです(このブログを定期的に読んでくださる方には分かっていただけると思います (*^^)v)。
また、ツマが働きに出ること自体にも、特に異論はありません。
ただし、1つだけ難しい問題があります。
「生きがい」のために減る世帯収入
子どもに手がかからなくなって、周りの知人・友人も働き始めるようになると、ツマにも「働こうかな?」という気持ちがニョキニョキ出てきます。金銭的報酬(or 自分のお小遣い)という気持ちもあるようですが、それ以上に「生きがい」や「社会参加」という気持ちが強いようです。
専業シュフとはいえ、子どもの習い事関係のお手伝いだったり、地域のボランティアやサークルなど、「地域ネットワーク」というライフラインを築く役割を担ってくれており、ボクはとても感謝しています。ただ、それはそれで結構忙しいようなので、月5万円ぐらいの仕事であればなんとかなるでしょうが、月10万円の仕事となると、ボクの家事・育児負担が増えることになると思います。
一方のボクですが、日々の仕事にかなり没頭しているため、家事・育児負担がこれ以上増えるなら、仕事の時間を減らすしかないかな、というところです。子どもに勉強を教えるのもボクの役目なので、普段から結構な時間を子どもに使っています。
そんなボクの収入ですが、3人の子どもを養っているため、それなりにあります。時給に換算すれば、ツマがもらうと予想される時給の4倍以上になると思います。以下では、計算を簡単にするため「4倍」として考えます。
ツマが月10万円の仕事を始めた場合、その半分の時間はツマ自身が吸収するとしても、残り半分はボクの家事・育児負担となりますので、ツマが5万円を稼ぐのに要する時間だけ、ボクは仕事時間を減らさなければならなくなります。時給換算で4倍なので、20万円の収入が失われることになります。
結局、ツマの収入が 10万円増えて、ボクの収入が 20万円減るわけですから、世帯収入としては 10万円減ることになります。つまり、ツマの「生きがい」や「社会参加」のために、10万円を世帯から出す計算になります。

サラリーマン社会 vs. フリーランサー社会
もちろん、実際には上に書いたほど単純なことではないでしょうし、サラリーマンであれフリーランサーであれ、パートナーが働きに出たら自分の時間がある程度削られることは同じです。ボクが睡眠時間を削ってこれまで通り仕事すれば、世帯収入は 10万円増えることになり、サラリーマンの場合と同じです。
ただし、サラリーマンの月収がほぼ一定であるのに対して、フリーランサー(特に、請負型)というのは基本的に時給労働であり、働く時間に収入が直結していることが多く、その点が大きく違います。
ツマが生きがいなり社会参加のために「月10万円分働きたい!」と言うのは分かるのですが、「その同じ時間だけボクが仕事を増やせば、月40万円も収入が増えるんだけど・・・!」ということになり、ツマの「生きがい」や「社会参加」の気持ちが行き場を失ってしまいます。時給に差があるため、「ツマが働くよりもボクが働いた方が効率が良い」と思ってしまうと、なかなかツマの背中を押せなくなってしまいます。
これは、夫婦のどちらか(あるいは両方)がフリーランサーで、時給換算の稼ぎに少しでも差がある場合(その究極が専業シュフ家庭)、必ずぶつかる問題だと思います。
子どもがいなければ、夫婦ともに「生きがい」を追い求めることも可能ですが、子どもを持つと、時給の高い方が働き、時給の低い方が(収入の発生しない)家事・育児を中心的に担う結果、究極的には「専業シュフ」が理想的な形となってしまいます。
今後、日本でもフリーランサーが増えていくと予想されますので、「生きがい」や家事・育児の分担を巡って、サラリーマン社会とはまた異なる問題が露わになってくるんでしょう。
未来の社会を暗示
家庭内の話としてツラツラと書き連ねてきましたが、突き詰めていくと、「生きがい」や「社会参加」を無視するならば、「時給の高い人間が働き、時給の低い人間は仕事に就けない」という状況になります。
これって、「時給」を「能力」で置き換えてみると分かるのですが、人工知能(AI)に奪われず残った仕事を能力ある人が担い、その人たちの稼ぎを原資とするベーシックインカム(BI:Basic Income)が支給されて、その他多くの人は仕事をしなくなる(仕事を奪われる)未来の社会に重なります。資本主義ゲームの「労働+報酬」を楽しめるのが能力ある一部の人間に限られる未来です。
それが良いのか悪いのかは分かりませんが、少なくともボクは、「生きがい」や「社会参加」という意味での「労働」を大切にしたいと思っています。