夏休みの思い出づくりに、小学2年生~中学3年生の子ども3人を連れて、日本百名山の1つを夜間登山(ナイトハイク)しました。目的はもちろん、「ご来光」です!
【伊吹山】ナイトハイク
登った山は、滋賀県と岐阜県の県境にあり、滋賀県で最も高い山「伊吹山(いぶきやま or いぶきさん)」です。標高自体は 1,377mと大したことはないのですが、百名山の中でも、中級~上級レベルとして紹介されていることが多いですね。近畿地方に3つしかない百名山のうちの1つであり、滋賀県唯一の百名山です。
伊吹山といえば、知る人ぞ知る「世界最深積雪記録」を保持する山です。1927年2月14日に積雪量 1,182cm(12m弱!)を記録し、この記録は現在も破られていません。日本海側からの冬の季節風の通り道に存在することが記録樹立の一番の要因です。「日本一」ではなく「世界一」ですからね、驚くべき記録です。
冬場は山頂に人を寄せ付けない厳しい山ですが、夏場は高山植物が咲き乱れる中、絶景や涼を求めて山頂を目指す人がたくさんいます。子どもの頃にも夜間登山の経験がありますが、その時は、登山者のヘッドランプやランタンが数珠つなぎになっていたのを覚えています。
ここ数年、3人の子どもが小学2~3年生を迎えるたびに、儀式的に伊吹山の夜間登山を実行してきており、今回はついに末っ子の挑戦です。長女は3回目、次女は2回目ということになります。子どもたちはますますたくましく、こちらはますます衰えていきます(涙)。
伊吹山は、ご来光を求めて登る人も多いのですが、ご来光に出会える可能性は、10回に1回と言われています。ボクも過去に10回以上登っていますが、見事なご来光(+雲海)の記憶は、長女を連れて登った6年前ぐらいしかありません。
果たして、今回は !?
登山計画と装備
伊吹山でご来光を仰ぐには、主に以下の3パターンがあります。
- 夕方から登って、山小屋で一泊する。
- 夕方~夜半に登って、テントで一泊する。
- 夜半から、ご来光に間に合うように登る。
「3」は子ども向きではありません。「2」も、山頂の夜はかなり冷え込みますので、子連れには不向きです。というわけで、「1」の選択です。16時に登山を開始して、20時に登頂完了となる計画です。山頂には数軒の山小屋がありますが、今回は「山のカフェ 松仙館」さんにお世話になることにしました。
※ 夏場の伊吹山登山(表登山道)は、西日を浴び続けることになりますので、十分な熱中症対策が必要です。日没とともに、今度は急激に気温が低下しますので、寒さ対策も必要です。
※ 山小屋に泊まる場合は、事前の予約が必要です。「伊吹山 山小屋」で検索すると、いくつか出てきます。最近は、登山者数の減少で、営業日を絞っている山小屋も増えているため、注意が必要です。
装備は、ごく普通です。
- 乾きやすい服(半袖+長ズボン)
- 着替え(汗をかいた場合や、翌日用)
- 汗ふきタオル
- 防寒具(長袖、カッパ、etc.)
- くつ(子どもは、溝深めの運動靴でも大丈夫)、ぼうし、サングラス
- 軍手(7合目より上は、岩場で手を使う場面が増えます)
- ライト(両手が空くように、ヘッドランプがおススメ)+予備電池
- 健康保険証のコピー
- 日焼け止め
- 虫よけ
- 洗面具(歯ブラシ、化粧品、etc.)
- カメラ、双眼鏡(絶景をお見逃しなく!)
- 水筒(水分は多めに! 1合目、5合目、山頂に飲料の自動販売機がありますが、当てにしてはダメ! お値段も、決して安くはありません)
- 食べ物(山小屋がオープンしていれば、軽食、カップ麺、ジュース、アルコール類を調達できますが、非常用の食べ物は絶対に必要です)
- おやつ(熱中症対策用の塩アメなども)
- その他、必要に応じて
伊吹山周辺でも、ツキノワグマの出没情報が少しずつ増えていることから、念のため、熊対策の知識を再確認してから出発です(熊のエサが少ない山なので、まず出没することはないと思いますが・・・)。
出発!
厳しい暑さも気にすることなく、順調に進んでいきました。途中、コクワガタやカナブン、カミキリムシ、バッタ、トンボ、チョウ、カタツムリなど、いろんな虫に出会いました。普段は昆虫が苦手な子どもたちも、山で出会うと普通に触れるのが不思議です。
1合目トイレ付近(トイレは、1合目、3合目、山頂にあります)。
3合目手前からの景色。雲が適度に日陰をもたらしてくれます。
3合目で出会った可憐な花々。
3合目に掲げられた草花の看板。
ところが・・・遭難?
翌々日に迫った台風10号の日本上陸の影響か、山頂付近がみるみるうちに真っ黒な雲で覆いつくされてしまいました。下界はよく晴れており、降水確率も10~20%ほどだったのですが、やはり山の天気は変わりやすいですね。先を急ぐことに・・・
6合目を過ぎると、辺り一面にガスがかかって、視界が徐々に悪くなります。シカの群れに出会いました。全国的に獣害が問題となっていますが、ここ伊吹山でも、年々シカの数が増えています。植物が食い荒らされてしまいます。
7合目あたりで日が暮れて真っ暗となり、風も出てきました。8合目にたどりつくも、視界不良と強風で、落ち着いて写真も撮れません。
この先は、写真を撮る余裕もないぐらいに少し焦ってしまったので、文字で振り返ります。
8合目を過ぎると、岩場が急峻になるため、ときどき手も使って登ることになります。風雨に浸食されて道も細くなり、一歩踏み外すと滑落してしまう場所もあります(実際、何年か前には、ケガをして動けなくなった人の救助にヘリが出動したこともあります)。その上、霧の湿った空気で岩が滑りやすくもなっています。
この状況で、末っ子が「こわい!」と言い始め、歩が進まなくなってしまいました。真っ暗闇の中、この巨大な山を登っているのは、ほんの数組です。ボクらの周りには誰もいません。ガスで視界は 10mほどです。風速は、15m/s 前後に達していたと思います。風速1m/s で体感温度が1℃下がると言われていますので、単純計算で 15℃前後も体感温度が下がっていたことになります。つまり、一桁の気温と同じです。ものすごく寒いです。雨こそ降っていませんが、末っ子が怖がるのも当然の状況です。
腰が引けて自力では立てなくなった末っ子が騒げば騒ぐほど、こちらも焦ってしまい、視界不良の影響もあって、道が分からなくなってきました。運の悪いことに、増えたシカが草木を食い荒らすため、道(砂利)と道以外(草地)との区別が付きにくく、暗闇&強風の中で前後左右を見失いそうになりました。
「大変な時に来てしまった・・・」
「目論見が甘かった・・・」
「山頂へたどり着けないかも・・・」
という後悔の念がしきりに頭をよぎりました。
ちょっと大袈裟ですが、《伊吹山で親子5人が遭難》という新聞の見出しが頭をよぎりました(「新聞」というのが古いですね。今なら「ネットニュース」でしょう)。
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というような状況が 30~1時間ほど続いた後、・・・・・山の神様が微笑んでくれて、9合目から山頂までに張られたロープがついに見えたのです! 助かった!
登頂成功
山小屋の主人が出してくれたコーヒーをすすりながら話を聞いていると、ここ最近は、登山する人が少ない上に道も荒れて、昨日も一昨日も、同じように迷いかけた人がいたとのこと。昔は、たくさんの人がご来光を求めて登る山だったのに、夜間登山が危険な山になりつつあるように感じます。
結果的には体力を消耗することもなく、少し迷っただけで済みましたが、小学校低学年の子連れには、ちょっと無理があるナイト山行だったかもしれません。誰も怪我することなく登頂できて、心からホッとしました。
下山はほぼ順調
山小屋で寝ている間も、風はゴーゴーうなり声をあげ、小屋がガタガタ・ギシギシと音を立てていました。翌日もガスが晴れることはなく、「ご来光」など夢のまた夢。今回も、おあずけとなってしまいました。
早起きする理由が無くなってしまったので、7時までたっぷりと睡眠を取り、のんびりと起床して、8時前に下山を開始。太陽が隠れているおかげで、涼しく清々しい下山となりました。
昨日迷った8合目から9合目の間も、明るくなってみれば、視界がはるか先まで届くため、迷う方が難しいぐらいです。なのに、暗闇&ガスともなれば、ちょっとした視界不良でいとも簡単に進路を見失いかねないことを、身をもって感じ取ることができました。
5合目から登山口までは、ほぼ雨。時に横殴りの雨。レインコートを着ていてもズブ濡れになりましたが、ゴールに向かう揚々とした気持ちは、雨など簡単に蹴散らしてくれます。
そして、下山開始からおよそ4時間で ゴーーール ‼
姉弟で手を取り合い、声を掛け合い、励まし合い、たまに喧嘩し合い、特に文句を垂れることもなく、酷暑や冷たい風雨、暗闇の恐怖にも打ち克ち、無事に生還してくれました。
あとがき
山をナメたらダメですね。天気予報も当てになりません。今回は惨事に至りませんでしたが、紙一重で運命がどう転ぶのか、まったく分かりません。少なくとも万全の準備が必要です。
そんな中でも、子どもたちは、日常やバーチャルの世界では決して味わうことのできない貴重な経験ができたと思います。上2人はもちろん、あんなに怖がっていた末っ子も、ケロッとした様子で、「また行こう!」と言ってくれたことが何よりも嬉しかったです。
下山後、小川で靴の泥を洗っていた末っ子が、その苦楽を共にしてきた靴を流してしまいました・・・・・お、おいっ (# ゚Д゚) !!!!! 今ごろ琵琶湖までたどり着いて、どこかを漂っていることでしょう。