敏感の彼方に

HSPエンジニアがお送りする、前のめりブローグ

「イクメン」が流行る何年も前からイクメンを実践しているエンジニア

イクメン 父親 育児 流行

 

福沢諭吉が米国から最初に乳母車を持ち帰ってから、およそ150年。

 

夫婦の家事・育児分担もテーマの1つであったダスティン・ホフマン主演の「クレイマー、クレイマー」が公開されてから 40年。

 

「イクメン」が流行語大賞トップ 10 に選出されてから 10年。

 

いろいろあったが、未だにイクメンがどーのこーのと世間が騒がしくなることがある。

 

もう、行儀よく「イクメン」なんてクソ喰らえ、と思う。

 

貧乏過ぎて自分のパンツを買ってもらえず、妹のパンツをはいて学校に行ったら、たまたま身体測定の日でクラスの笑い者になったバカなオヤジと、貧乏で自転車を買ってもらえず、放課後に2時間歩いて友だちの家に遊びに行っていたバカなオフクロとの間に生まれたやはりバカなオレが、なぜそう思うのか自問自答してみた。

 

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ある研究によれば、江戸時代には、イエやトチを守っていくため、子どもを賢く育てることが父親の大事な役目であり、職住が接近していたこともあって、いろんな行事や子どもとの遊びも含めて、父親が育児に関わるのは割りと普通だったらしい。

 

それが、「西欧に追い付け追い越せ」の明治・大正以降、特に男性がサラリーマンとして月給をもらうようになった大正時代以降、女性だけが家事・育児を担う「専業主婦」が登場し、高度成長期に広がったらしい。

 

そして、最近 10 年ほどの育児休業取得率は、女性が 80~90%で推移しているのに対し、男性は徐々に増加しているものの2%前後と低空飛行しており、また、男性の家事・育児の参画時間も、欧米諸国の1/3~1/2程度と低いらしい。

 

封建制の終焉で家庭での役割がなくなった父親の背中に羽が生え、外でパタパタとヨロシクやっているうちに、気が付いたら欧米諸国は先に進んでいて、家事・育児でまたしても「西欧に追い付け追い越せ」になってしまった、ってことか。

 

守るべきほどのイエやトチもない今、かと言って外でパタパタできる風潮でもない今、居たたまれなくなって当て所もなく彷徨うか、グレーかブラックか分からないけど少なくともカラフルではない職場で暇を持て余すか、誰かに言われて「クソくらえ」と思いながら子どものクソがたまったオムツを交換してやるか・・・。

 

まぁ、そんな流れでピッカピカの「イクメン」だ。

 

しかし、外でパタパタやるのが割りと当たり前の時代に、家庭でバタバタと家事・育児に関わる父親も確かにいた。少なくともオレの前にはいた。

 

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オヤジは、中学を出たら働くつもりだったらしいが、たまたま成績が良かった小学校時代の校長先生がお金を出してくれたおかげで、教室の後ろ半分では不良どもが日々マージャンに明け暮れる工業高校に通えた。校長先生のお金でマージャンをやるわけにもいかないから、勉強しまくった。楽しかったらしい。

 

もちろん、大学にいくお金はないから、高校卒業と同時に就職だ。

 

就職した大手メーカの寮では、旧帝大の哲学科卒の同期が「労働とは何か」「人間とは何か」を演説するのが日常ちゃめしごと。そういう時代だ。

 

高卒の純粋無垢でバカなオヤジは触発され、労働運動に勤しむ日々。そういう時代だ。楽しかったらしい。

 

そんな体育会のように刺激的で嵐のような日々も、時代の流れや結婚・出産というイベントとともにあっさりと過ぎ去り、まるで日本には労働運動などなかったかのように、戦後から淡々と経済成長だけしてきたかのように、平穏な日々が始まったらしい。

 

企業戦士として、出世して会社の金で自分の好きな事業をやることだけを目標としたオヤジだが、オフクロが看護師で忙しく、核家族で頼れる人間がいなかったこともあり、オレを含む子ども3人のために、料理や皿洗いなんかは普通にやっていた。休みの日には、キャッチボール、プール、山登り、スキーなど、いろいろと相手をしてくれた。家事や育児が得意なわけではないが、若い頃にやりたいことをやり切ったという思いと、あとは自分なりの覚悟があったんだろう。

 

そんなオヤジが怒ったりイライラしたりする姿を見たことはない。自分の中にたまるストレスや澱/滓は、いつも酒で洗い流していた。とにかく楽しい酒だ。会社では必ず宴会に引きずり出され、自宅では寝るまで酒を飲み続ける。会社帰りに飲んだあと、踏切で寝転がっているところを救急車で運ばれたことが何度かあった。オフクロは、今でもその数々の事件を振り返ってグチグチ言いながら、どこか嬉しそうでもある。とにかく酒だ。楽しい酒は、すべてを洗い流してくれる、とオヤジの背中が教えてくれた。

 

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オフクロは、中学を出て農協で働き始めた。1年ほど働いたある日、職場の上司が「高校ぐらい出ておけば」と言ってくれたこともあり、夜間高校に通った。どんな学生生活を送ったのかは知らない。まだボケていない今のうちに、聞いておいた方が良さそうだな。

 

どんな青春を送ったのかもよく知らないが、とにかくオヤジと結婚した。そして、子どもを3人産んだ。

 

血迷ったバカなオフクロは、末っ子が2歳になったころ、地元に新しい総合病院が建ち、看護師を増やすために看護学校が授業料なしで生徒を集めていることを知って、迷ったか迷ってないかは知らないが、応募した。これが、貧乏人の性である。そして、10歳以上離れた若い生徒たちと机を並べて勉強を始めた。

 

看護師になれたのは良かったが、その後は怒涛の生活だったと思う。夜勤がある。家事・育児がある。頼れる人間はほぼいない。でも、家事や育児は手抜きしない。でも、怒らない。イライラしない。

 

当時、オフクロの寝ているところを見たことがない。オヤジが精一杯、家事・育児を手伝っても、そんな状況だ。今から思い返してみても、バケモノのような人間だ。そんな忙しいオフクロに、小学3年生のオレは、「図工の宿題が上手くできない」と泣きながら訴えた。翌朝、仕上がっていた。子どもながらに、バケモノだ、怪物だと思った。小学3年生の記憶はこれぐらい。

 

小学4、5年生のころ、校内マラソン大会が近づいてくると、「一緒に走るよ」と言って、朝食前にオフクロ自ら走り始めた。こちらは眠いが、夜勤明けに仮眠しただけで走っているのを知っているから、さすがにサボるわけにもいかない。

 

中学生になって、不良の巣窟と言われていたある運動部に入ると、明かりがなくて真っ暗闇の部室は、タバコの煙で真っ白だった。一癖も二癖もある先輩や同期の影響を受けずにいられるはずもなく、先生や大人にはそれなりに反発したもんだ。でも、オフクロには反抗しなかった。できるはずもない。相手はバケモノだからな。

 

そんなオフクロは、オレたち子どもに何も言わない。

 

オレが中2のころ、「明日から自転車で旅してくるわ」と言って、友だち5人とテントを担いで 200 km ほど先まで勝手に出かけた時も、「気を付けてね」だけだ。

 

また、20 km ほど先の隣町の沼でブラックバスがよく釣れると聞き、「明日3時に釣りに行くわ」と言って、バカな友だちと真っ暗闇の中、釣りに出かけた時も、「気を付けてね」だけだ(学校には間に合った)。

 

大人になってから、何故あの時何も言わなかったのか、と聞いてもニヤニヤしてるだけだ。自分に子どもができた時、仕事と家事・育児で時間をどうやり繰りしていたのか、と聞いてみたが、ニヤニヤしてるだけだ。まったく、バカなバケモノだ。自分で考えろってことか。

 

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そして、オレだ。

 

バカ同士を掛けて天才が生まれる場合もあるんだろうが、オレの場合は(バカ)^2だ。若い頃は、とにかく遊ぶこと、運動すること、いろんなことを経験すること、それらだけに一生懸命だった。

 

大学では血迷って体育会系の運動部に所属してしまい、それはそれでインカレにも出られたから良かったのだが、とにかく金がない。(バイト)^3だ。塾講師や家庭教師は、単価は良いがツマラナイ。だから、引っ越し、鉄工所、交通量調査、発破騒音調査、パチンコ、運送屋、イベント警備員、ビラ配り、病院、血液検査会社、印刷屋・・・なんだかんだで 30 種類以上のバイトをやったと思う。

 

(体育会系+バイト)だから、当然、勉強はしていない。

 

勉強はしていないが、(体育会系+バイト)の4年間を(遊び+バイト)の2年間に変えようと思い、また血迷って大学院まで行ってしまった。当然、勉強はボチボチだ。

 

学生の間はバイトや借金を重ね、就職してからはナケナシの給料をつぎ込んで、東南アジアや南米を放浪し、外国までスキーやスキューバに出かけ、飲み会もスポーツも釣りもマージャンも花見も散々やった。死に物狂いで遊んだ。その分、死に物狂いで働いた。今のようにスマホや SNS なんてものは発達してなかったから、コミュニケーションのために無駄な時間やお金を取られることもなかった。限りなく自由な日々だった。

 

やがて、結婚・出産というイベントにたどり着いた。

 

こればっかりは、ただの運だから何も強調することはないが、1つだけ言えるのは、「後先なにも考えなかった」ということだ。

 

出産というのは、実に動物的な営みだ。そして、今となっては常識でなくなりつつあるものの、通常、出産に至る前には結婚という儀式をやらなくてはならない。だから、結婚と出産というのは、セットで動物的な営みだ。そう、動物だ。動物は後先を考えるか?聞いたことはないが、たぶん考えない。じゃぁ、結婚や出産で後先を考えるなんて、ナンセンスだ。ということすら考えなかった。バカなオヤジやオフクロも、当然、何も言わなかった。そうやって、ものごとは勝手に進んでいった。ただの運としか言いようがない。

 

「家族のためにガンバル」とか「家族を幸せにする」とか、歯の浮くようなセリフを吐けるほどのことができるとは思ってないし、そもそも頑張ってるかどうかは見てる家族が決めるもの。幸せかどうかは、一緒にいる家族が感じるもの。

 

あるのは、目の前の事実だけ。家族が増えた、子供ができた、という事実が増えていくだけ。その事実に対して、自分がどう動くかだけ。基本的には何も考えない。じゃぁ、何に向かって、何を基準としてオレの身体は動いているのか、考えてみると、やっぱりそれは、オヤジやオフクロの背中へと向かっている。それしかない。オヤジのように酔っぱらって踏切で寝ながら星空を眺めたい、オフクロのような寝ないバケモノになりたい。そうする中で、いつも ニヤニヤ ニコニコしながら家族に接していたい。

 

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子は親に似る。

 

子育てしていて感じるのは、(残念ながら)容姿も性格も行動も、分身かと思うぐらい子どもが親に似てくること。

 

生活パターンも、食べ物の好き嫌いも、休日の過ごし方も、「なんとなく似ているなー」と思って観察していると、実はそっくりであることに気付く。キモチワルイ。

 

オレも残念ながら、(オヤジ+オフクロ)÷2の道をまっしぐらだ。ツマMは、そんなオレを時に疎ましく思い、時に面倒くさく思い、時に煙たがり、時に嘲り、時に地獄へ突き落し、そして1年に5秒ほどリスペクトしている、と思う。だがツマMよ、「夫婦は似る」という恐るべき格言を知っているか?残念ながらお前は、((オレのオヤジ+オレのオフクロ)÷2+お前)÷2の道を歩み始めている。近くで見ているから分かる。残念だったな。

 

そんな「子は親に似る」の前提となる親子関係は、運でしかない。その前提となる夫婦関係も、運でしかない。運の中に、夫婦関係も親子関係もある。

 

守るべきほどのイエやトチもない現在の「イクメン」なんてものは、夫婦関係あるいは親子関係における1つの形態(上下関係、見栄、承認欲求、その他)に過ぎない。てことは、運だ。イクメンのムスコは、イクメンになりやすいだろう(エビデンスがあるかないかは知らんが)。それも運だ。運だから、表面的には取り繕えても、根本を捻じ曲げるわけにはいかない。だから、「イクメン」なんてのは育児の正解でもなんでもない。ただの運だ。

 

「イクメン」という言葉が登場する何年も前、オレは生まれたばかりの赤ん坊のオムツを交換していた。誰かに言われたわけではない。ただ、そうしたかっただけだ。信じられないかもしれないが、身体が勝手に動くのだ。それは、オヤジとオフクロのムスコとして、両者の背中を見てきた結果としての運としか言いようがない。自慢することでもないし、アピールすることでもない。ある意味、逃れようのない運命なわけだ。

 

そんな運命から逃れずに受け入れようと思って、1つだけ決断をした。それは、人が人を評価する意味でのキャリアは捨てて、モノを介して評価されるキャリアだけに仕事を限定しようと決めたこと。理由は簡単。自分の時間を作りやすくして子育てに関わるためだ。もちろん、リスク大である。バカなオヤジやオフクロは、当然、何も言わない。

 

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育児は、向いている人間がやればよい。あるいは、向いている人間が育児に関わったりサポートしたりできるような環境にすればよいだけだと思う。もちろん、仕事も家事・育児も等しく大変なことだから、互いにリスペクトすることを忘れてはいけない。

 

それでも世の中で「イクメン」が求められるなら、結婚前の男子には「死に物狂いで遊べ」と言いたいし、結婚前の男子がやりたいことをやり切れるように社会全体で応援してやりたい。もちろん、結婚して子どもができたら育児に専念することを前提としてだ。男子に限ったことじゃないな。女子も同じだ。散々遊んだら、その地位を次世代に譲ればよいのだ。それが嫌なら、結婚や育児なんて、無理強いするほどのことではない。この今の時代に。

 

あとは体力だ。育児に頭は要らない。消耗するのは体力だけだ。いくら勉強ができようとも、高等教育で学ぶ程度の合理性や論理性など不要である。逆に、育児の邪魔になるかもしれない。育児に関してだけなら、体力バカになることをお勧めする。これも、男子に限ったことじゃない。女子も同じだ。

 

オレが思うに、育児ほど楽しくも苦しくもあることは、なかなか見当たらない。気味悪い自分の分身が(分身じゃなくても)大声を出したり壁をぶち破ったり家を破壊したりしながら自分に似てくるんだからな。こちらも行儀よくなんかしてられない。「育児やる」と決めたなら、後先考えず動き続けるだけだ。決断が大変なわけで、決断した後は動くだけだ。そんな簡単なことってないだろ。

 

この前、子どもたちと公園に行ったら、砂場で何かを作り始めた。えっちらおっちらと山や城を作っているらしい。もう、見ているだけの自分がつまらなくなって、七大陸最高峰や世界三大河川、三大瀑布を一緒に作ってしまった。誰もいない砂場全体を使ってだ。バカの恐ろしさを子どもに見せつけてやった!

 

そして、行儀よく「イクメン」なんてクソ喰らえ、と思った。

 

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