スマートフォンの登場から程なく、「スマホに乳幼児のお守りをさせる」ことの是非が社会の新たな問題として浮上しました。今も明確な答えはなく、特にワンオペで子育てに苦労する父母にとっては尽きない悩みです。
問題を難しくしているのは、主に以下2つの論点です。
- スマホ依存症などの乳幼児本人への影響
- 他人からの「スマホにお守りなんかさせて・・・」という非難
どちらも個人差があったり、価値観の相違であったり、100%の正解が導き出せない問題のため、どこまで行っても議論が平行線をたどります。
でも、ボク自身は、スマホの登場前後に3人の子を育てた経験から、「長時間は絶対ダメだけど、上手に使えば全然問題なかった」という結論に達しています。この記事では、「スマホ育児って、実際にどうなの?」ということを綴っていきたいと思います。
あくまでもボク個人の体験談であり、科学的な証拠がそろっているわけでもありませんが、現在・未来の子育て世代に少しでも参考になれば幸いです。
我が家のスマホ育児体験記
中学2年生の長女は「DVD 世代」、小学5年生の次女と1年生の長男は「スマホ世代」と言えます。次女の誕生前後にスマホが爆発的に普及し始めました。
それまでは、子どもがぐずったり退屈したりした時には、ディズニーやジブリなどの DVD を子どもに見せたり、NHK 教育「Eテレ」の番組を見せたりして、その場を凌いでいました。「スクリーンの見過ぎは良くない」という意識は常にありましたので、本当に困った時や静かにしていて欲しい時、ツマの体調がすぐれない時など、利用する時間は可能な限り短くなるように努めました。
長女を電車などの公共の場に連れ出す際には、玩具やおやつを必ず携行していましたし、ぐずって騒ぎ始めたら、ツマと必死になってあやしていたのを覚えています。
私鉄 73 社でつくる日本民営鉄道協会が 1999年度から続けている「車内で迷惑と感じる行為」調査でも、「騒々しい会話・はしゃぎまわり等」が9年連続で1位を獲得しています。乳幼児の泣き声なども含まれていそうですから、我が子たちの叫び声なども随分と迷惑に思われてきたんだろうな、と感じています。
「スマホを使えば子どもは静かになる」ということが世間的にある程度知られるようになった今は、子どもが泣き叫んでいるのにスマホを持たせなかったら、「なぜスマホであやさないんだ!」というお叱りなんかも逆に受けそうですね。
それぐらい、スマホに育児を頼るのは当たり前になりつつあります。スマホがこれだけ普及してインフラ化してしまった以上、「スマホに子守させるな!」という主張は全く現実的ではありませんし、若い世代の同意を得られないでしょう。現実的には、「スマホとの上手な関わり方」を模索するのが一番の解決策だと思っています。
経験から、男の子の方がスマホに依存しやすいと感じています。長男も、3歳前後のころが一番ひどかったですね。あの当時は、スマホの存在そのものを呪いましたし、スマホを床に叩きつけたこともあります。
でも、今ではそれも懐かしい思い出となっています。言葉や状況が徐々に分かってくる3歳ごろから、スマホに依存することの恐さや時間の無駄を丁寧に丁寧に何度も教えてきた結果、今では、スマホやゲームに依存しがちな友達のことを客観的に語れるようになりましたし、親が画面を見過ぎている場合にも注意してくれます。
以上の経験から、3歳前後でスマホとどのような関係を築き始めるかが、その後の関わり方に大きく影響するのではないかと実感しています。
スマホ育児のメリット
子育ての敵と見なされがちなスマホですが、一般的にはこんなメリットもあります。
退屈しのぎ
まさしく、本記事のメインテーマである「スマホに乳幼児のお守りをさせる」ことなんですが、電車内などの公共の場では静かになってくれますし、親が疲れた時には親の手を離れてスマホにかじりついてくれますし、特に核家族や共働き世帯にとっては、最も大きなメリットと言えますね。
知育
知育アプリやしつけアプリを上手く利用すれば、スマホが乳幼児の知能発達に一役買ってくれますし、パブロフの犬のようなしつけも可能になります。視点を広くすれば、ICT 機器(情報通信機器)について学ぶ機会にもなります。
コミュニケーション
親も子もスマホにのめり込み過ぎると、コミュニケーションの断絶しかもたらされませんが、共通の話題ができると考えるなら、親子のコミュニケーションのきっかけにもなる優れものです。アプリなどを介して、子どもと積極的に関わるのは良いことです。
時間管理
小さいうちから「電車に乗ってる時だけ」「30 分だけ」というクセ付けを続けると、これが習慣となって、ある程度の年齢になると、自分で使用時間を管理できるようになります。個人差はありますが、電車が目的地に着いたら自分からスマホを返すようになったり、使用前に自分で「30 分だけ」と宣言してから使い始めたりするようになります。スマホに限らず、その他の遊びや勉強の時間管理も上手くなったように感じます。
スマホ育児のデメリット
上のようなメリットがある一方で、以下のようなデメリットがあるからこそ、親としては子どもにスマホを与えることを悩んだり逡巡したりするわけです。
視力の低下
スマホやパソコンが発するブルーライトは、目への悪影響(視力の低下)のみならず、生体リズムへの影響や頭痛などの症状を引き起こす可能性が指摘されています。
依存症・中毒
スマホ依存が怖いのは、依存そのものではなく、それがもたらす様々な弊害があるからです。たとえば、運動不足になったり、睡眠不足になったり、親子間のコミュニケーションの妨げになったり、そのような弊害が特に育児には大きな悪影響となります。スマホ中毒にまで進んでしまうと、もはや自力での回復すら困難となってしまいます。
短時間の使用と親の「罪悪感」が大切
さまざまなメリット・デメリットがありますが、メリット(特に「退屈しのぎ」)が総合的にデメリットを上回るため、スマホ育児が一般的になりつつあるわけですし、人間は、いったん手にした便利なモノを、そう易々と手放せるものではありません。
ですので、「スマホとの上手な関わり方」を模索するには、デメリットをどれだけ抑えられるか、という点が重要になります。
「視力低下」というデメリットについては、使用時間を短くすることが一番の対策になりますし、ブルーライトを抑えるアプリを導入するのも1つです。「視力低下」を気にし過ぎて親子ともに息苦しくなるよりは、適度にスマホを利用してストレスを軽減することで、親子関係が良好になるパターンもよく見掛けますね。
一方の「依存症・中毒」というデメリットについては、親に「罪悪感」があれば問題ないと思っています。「スマホに相手なんかさせてゴメンね」という気持ちが少しでもあれば、スマホを利用した分だけ後からフォローしようと努めるはずですから、それで親子のコミュニケーションを十分に確保すれば良いのです。
ネットにしろゲームにしろ、ある程度成長してから依存症になるのは、親からの過度な期待、DV、学校でのいじめ、過酷な受験戦争など、現実世界の困難から逃れて自分らしく生きられるネットやゲームの世界に救いを求めるケースがほとんどと聞きます。
ですので、乳幼児にしろ小中学生にしろ、ちゃんとアイコンタクトを取り、相手に深く関わり、1人の人間として確実に接してあげるように心掛ければ、一時的に依存気味になることはあっても、必ず現実世界に戻ってきてくれると実感しています。
ちなみに、「子どもたちのインターネット利用について考える研究会」より、乳幼児(3~6歳)にネットを利用させる際の保護者向けセルフチェックが公開されていますので、とても参考になりますよ。
家庭の「ボス」の影響が大きい
また、子どもがスマホ依存になりやすいかどうかは、その家庭の「ボス」の行動が大きく影響するように感じています。家庭の主導権を母親が握っているなら母親が「ボス」ということになりますし、父親が握っているなら父親が「ボス」ということになります。
※ 「ボス」と言っても偉いわけではなく、最終決定権「のようなもの」があるかどうかです。
一例として、父親が「ボス」なら、その父親が家事・育児に深く介入すれば母親の負担が軽くなり、結果的に母親が子どもと向き合える時間が長くなります。
また、父親がスマホいじりに没頭しすぎないように自覚したり、子どものスマホ使用をこまめに注意してやったり、スマホに依存することの恐さや時間の無駄を丁寧に教えてやったり、そういうことの効果は絶大だと思います。子どもは大人の背中を見て、真似しながら育っていきますからね。
親の「ながらスマホ」の方が怖い
子ども自身のスマホ依存もさることながら、それと同程度かそれ以上に心配なのが、親のスマホいじりです。ツマの行動を見ていると、ママ友や学校関係者、習い事先などから頻繁に LINE が入るため、良くないこととは思いつつ、結果的に四六時中スマホの画面を眺めていることになってしまっています。
これでは、子どもとのコミュニケーション時間を確保できませんし、親の背中を見ている子どもに対して「スマホに依存せよ」と伝えているようなものです。
ボクは、自宅ではスマホをほとんど触りません。レスポンスが悪くて希薄な縁になったとしても、「元々その程度の関係だったんだ」としか思いません。現実空間で目の前のいる相手のことを一番に考えたいと、いつも心から思っています。
それに、ネット空間のニュースにしろゲームにしろ、そのすべてはあまりにも予定調和的すぎて、ボクには面白さがあまり分かりません。現実空間に宿る不確実性や不透明性ほどギャンブル的で刺激的な楽しみはないですね。
さいごに
今の子育て世代に孫ができる頃には、スマホに代わる新たなツールが登場していることでしょう。それに対してダメ出しをするのは、テレビに育児を押し付けていた世代がスマホ育児にダメ出しをするようなものです。
そんなダサかっこ悪い老人には、なりたくないものです。