仕事で過去の新聞や雑誌・論文を調べていて、「そういえば、FAANG(Facebook、Amazon、Apple、Netflix、Google)と呼ばれる『現代の黒船』が日本に初上陸した時の様子はどんなものだったんだろう?」と気になりました。
現代の黒船 FAANG
ご存知の通り、「黒船」というのは、マシュー・ペリー率いる米海軍東インド艦隊の艦船のことであり、徳川・江戸幕府末期の日本に来航して、鎖国 300年の歴史に終止符を打つきっかけとなった、あの4隻の黒船のことです。
あれからわずか 150年。
GAFA と呼ばれる4隻に Netflix を加えた5隻の黒船は、プラットフォーム事業者として、日本では既に必要不可欠なインフラとなっています。そして、ユーザのみならず、優秀なエンジニアも次々に取り込まれて、もはや「開国」どころか、国境の意味すら無くなりつつあります。
そんな黒船たちの日本上陸当初の姿を簡単に追いかけてみたいと思います。まず最初は、Google(グーグル)からです。
調べ方
- 仕事ではありませんので、割りと適当です。
- 「上陸」の定義は、「一般に広く知られること」とします。
- そのため、ネット情報や学術論文ではなく、全国紙、業界紙、ビジネス雑誌など、幅広い年齢層の目に止まる媒体の記事を対象としました。
- その中で、「グーグル」に関する記述が中心となっているものを、最も古い記事から順に、適当な数だけ拾い出しました。
- 調査結果には誤りがあるかもしれません。あしからず。
以上のように調査して、いくつか面白い記事が出てきました。
グーグルの日本初上陸
今回調べた限りにおいて、グーグルを中心的に扱った記事としては、以下の時事通信の記事が日本最古のものです。したがって、これを勝手に「グーグルの日本初上陸」と認定します(ただし、この記事が実際に新聞・ニュースなどで報じられたかどうかは不明)。
【サイトに10言語バージョンを追加-ネット情報検索の米グーグル】
急成長を続けているウェブ・サーチエンジンの一つ、米グーグルは、受賞製品である同社のサーチエンジンの新しい言語バージョン10種を発表した。この拡大サービスでユーザーは、フランス語、ドイツ語、イタリア語など欧州言語10種のどれででも情報検索ができる。同社は今年末までに、日本語、中国語、韓国語などさらに多くの言語バージョンを追加する計画。そのホームページでリンクすれば、好みの言語を選択でき、次回からの検索のため言語選択はセーブできる。ある調査によれば、現在インターネット上のウェブサイトの80%は英語を使用しているが、2003年までにはサイトの55%は英語以外の言語による表示になると予測されている。引用:時事通信(2000.5.10)
今から 20年近く前、20世紀最後の5月の記事ですが、初上陸にしては、割りと地味な内容ですね (*'▽')。
プラットフォーマーとして確固たる地位を築きつつある今は、日本のみならず欧州各国でも、個人情報の取り扱いや市場の独占などが問題となっているため、どちらかといえば「脅威」として紙面に登場する機会が増えてしまいましたが、20年前の当時は、日本語サービスの開始を待ちわびているような、ちょっとした歓迎ムードも漂います。
グーグルが全国紙に登場
次に登場したのは、読売新聞の紙面です。
【“超便利”ネット検索エンジン続々 「お気に入り」やリンクを利用】
◆飛躍的に精度アップ
(中略)
昨年から正確な検索結果が話題となっているのは「グーグル」(グーグル社・米カリフォルニア州、http://www.google.com/)だ。ホームページ閲覧ソフト「ネットスケープ・コミュニケーター」の英語版とも連携、ページのアドレス(URL)を打ち込む欄にキーワードを入力するだけで検索結果が表示される。
今のところ日本語には対応していないが、例えばローマ字で「hiromi go」(歌手の郷ひろみさん)と入力すると、約四千の結果が探し出され、リストの一番目にはちゃんと公式ページが掲載されるといった具合だ。
この検索はコンピューターが世界中のページを自動で次々に調査する「ロボット型検索」に分類される。この方式では通常、キーワードがあるページの情報を大量に集めるため、欲しい結果が埋もれるのが常だった。これに対しグーグルは、ページの重要度を、他ページからリンクされている回数を元に順位付けしたのが特徴。順位付けに際しては、リンクしている他ページの重要度も考慮に入れており、「精度」が飛躍的に向上したという。
(中略)
今や数十億に上るページの検索は、ロボット型検索のほかに、最もポピュラーな「Yahoo!」のように人手でページを分野別に分類して索引を作り、キーワードに合った分類名や紹介文を持つページを探し出す索引型検索がある。
通常このような索引は専門の担当者によって編集されているのに対し、希望者が索引の編集者となり、ボランティアとしてページを登録していくのが六月下旬にも日本でサービスを開始する「ブリンク」(ブリンクドットコム社、http://www.blink.co.jp/)だ。
このサービスの特徴は、ある分野に詳しい人は、その分野の貴重なページを数多く蓄積しているはずという前提に基づき、利用者が自分で収集し、分類した「お気に入り(ブックマーク)」を情報交換すること。(後略)
引用:読売新聞(東京朝刊:2000.5.31)
ブログなどで SEO 対策を頑張っている人ならご存知の通り、他ページからのリンク数なども加味してそのページの重要度を判断するロボット型検索アルゴリズムは、20年前の検索エンジン業界に革命をもたらすものであったことが分かります。
また、索引型検索として、Yahoo! のほかに、「ブリンク」という懐かしい名前も登場していますね。
当時は、「hiromi go」で検索した結果が 4,000件ほど、とのことですが、先ほど「hiromi go」で検索してみましたら、約 1,500万件でした。単純計算で、およそ 20 年の間に情報量(検索結果)が4千倍になっています。当然、郷ひろみさんのオフィシャルサイトが検索順位のトップです(ちなみに、「郷ひろみ」で検索したら、約 580万件でした)。
グーグルの日本語サービスが開始
3番目に古い記事は、日本語サービスの開始を報じる「日経パソコン」の記事でした。
【ニュース~検索エンジンのGoogle 日本語サービスを開始】
米国で新しい検索エンジンとして人気のあるグーグルが日本語サービスを開始する(http://www.google.com/)。既にベータサービスを開始しており、8月には本サービスを始める予定だ。
グーグルは米スタンフォード大学の学生だったラリー・ページ氏(現CEO)とサージェイ・ブリン氏(現社長)が開発し、98年9月にサービスを始めた検索エンジン。検索速度が速いこと、数多くのWebサイトをインデックス化していること、簡潔なユーザーインタフェースなどが評判となり、短期間で検索エンジンの大手のひとつに成長した。
(後略)
引用:日経パソコン 第366号(2000.7.24)
日本上陸が最も早かった時事通信の記事では、日本語サービスの開始は「年内」と報じられていましたが、その後急速に開発が進んだのか、8月に日本語サービスが始まることになった模様です。つまり、20世紀最後の夏に、グーグルを日本語で利用できるようになったわけです。あの夏、ボクは何をしていたかなぁ・・・ ('Д')。
グーグルの戦略
これまでに紹介した3件は、ニュース的な側面が強かったり、グーグルの技術を簡単に説明したものであったり、この頃の日本では「検索といえば Yahoo!」という常識が依然として根強く残っていたことが何となく分かりますが、以下の「日経ビジネス」の記事で、いよいよグーグルの実力が日本でも認められつつあるような雰囲気が感じられます。
【時流超流・トレンド e革命の波~グーグル、キーン・ドット・コム…検索エンジンで新世代が台頭 ヤフーやシスコがぞっこん、群抜く速さと的確さ】
ウェブサイトの検索というと、大抵の人はヤフーを思い出すに違いない。
しかし、そのヤフーが今、サイト検索に使っている技術は自前のものではない。グーグルというスタンフォード大学の学生が始めた新しい会社の技術を今年の8月から使い始めた。(中略)
1998年の9月に創業した当時は、1日に1万件ほどの検索依頼しかなかったが、今年の6月には1000万件を超え、8月からヤフーが同社を採用したことで「検索依頼がそれまでに比べて1ケタ増えた」(ラリーCEO)という。
(中略)
どんなページへも0.5秒以内で
グーグルの検索ページでサイトを検索すると、大抵0.5秒以内で検索が完了する。もう1人の創業者であるセルゲイ・ブリン社長は「1つの単語で検索するだけなら、ほかの検索エンジンとの差はそれほど感じないが、2つ3つと検索する条件を加えると、検索時間の差が実感できる」と言う。
グーグルの検索エンジンは、データマイニングと呼ばれる技術と、サイトの評価方法に特徴がある。(中略)
こうした技術力だけではなく、同社はサイトの作り方やビジネスモデルにも特徴がある。グーグルのサイトには派手な画像を使った広告はなく、使う色の数も限定されている。単純さが売り物の1つだ。その理由をブリン会長はこう説明する。
「広告に目を向かせようとして、できるだけ派手な広告を載せれば載せるほどサイトは醜くなる。その結果、そのサイトの滞在での時間は短くなり、かえって広告の効果は少なくなる」。同社のサイトでは、テキスト広告という、単純な文字情報だけの広告がある。しかも、サイトのデザインを壊さないように色使いも限定されている。
だが、こうした制限を加えられるのを好ましく思わない広告主もいるはず。それに対し、ブリン会長は「我々のビジネスモデルが広告だけに頼らないことも、そうした制限を加えられる大きな条件になっている」と話す。同社の収入の半分以上は、ヤフーへ供与したような検索システムを他の企業へ供与した際の使用料が占める。
(後略)引用:日経ビジネス 第1061号(2000.10.9)
どのようなルートをたどれば最も速く目的のデータ(サイト)にたどり着けるかは、ソフトウェア技術者のデータマイニングの力量が試されますし、重要なサイトに対するリンク構造の分析によってその重要性を判断する方法は、数学的な素養が必要になります。
このように、他社と異なる視点でウェブの世界を捉えるとともに、高性能コンピュータを何千台もつなげて強力なデータセンターを構築することにより、特に検索条件が複雑な場合に、他の検索エンジンを寄せ付けない圧倒的な強みを発揮するテクノロジが確立されてきたことが分かります。
また、一般人としてアドセンスのお世話になっていることもあり、「グーグル = 広告」というイメージが当然強いのですが、サービス提供当初から広告に頼り過ぎることなく、逆に、広告をベタベタ貼り付けた他の検索サイトとは一線を画していることも分かります。
このような逆転の発想により、広告(マネー)がギラつかないクリーンな印象を構築して、他の検索サイトの広告に嫌気が差し始めていたユーザを見事に取り込み、そのユーザのサイト滞在時間を長くすることで広告収益を上げていく戦略には、やはり先見の明を感じますね。その思想は、今も脈々と受け継がれていることでしょう。
まとめ
グーグルの日本初上陸と思われる時事通信の 2000年5月の記事に始まり、その後に続く3つの記事を紹介しました。
スタンフォード大学の博士課程に在籍するラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンが研究プロジェクトの一環として検索エンジンに取り組み始めたのが 1996年1月、「google.com」というドメインが取得されたのが 1997年9月、法人格となったのが 1998年9月、そして日本語サービスの提供が始まったのが 2000年8月ですから、産声を上げてから日本語で利用できるようになるまでに、4年以上もの長い時間を要していることになります。今の時間感覚で考えると、ものすごく時間が掛かっている印象を受けますね。
でも、その後は現在に至るまで、変化の激しい業界で 20年にわたって検索サービスの第1のプラットフォーマーとしての地位を保ち続けているわけですから、グーグルという会社が如何に普遍的で替えの利かないテクノロジとビジネスモデルを編み出し、それを世界全体に張り巡らせているかが分かります。
とは言え、「世界中の情報を整理し尽くす」という使命とは裏腹に、最近では、SEO に押され気味で、「望みの検索結果になかなか到達できない」という意見がもっぱらですね。1ユーザとしてもそれを強く感じています。今後に期待したいところです。
わずか 20年ほど前の出来事なのに、上陸当初の記事を読んでいると、隔世の感が半端ないです。それぐらい、この 20年のテクノロジの進歩も半端ないってことですね。
テクノロジの進歩が速すぎて、そのテクノロジに法律や一般人のリテラシが追い付かず、その隙をついて「バイトテロ」のような事件が起こってしまうことも、仕方のないことのように思えてきます。
さいごに
「FAANG」という現代の黒船が日本に初上陸した時の様子を探るべく、まずは Google(グーグル)のことを簡単に調べてみましたが、このシリーズを今後も続けるかどうかは、今のところ決まっておりません。あしからず。