およそ1年前、アルビノで真っ白な体に、ピンクのくちばしが実に鮮やかな文鳥が我が家の一員となりました。名前は「おもち」です。子どもの強い希望に根負けして、1歳の彼女をペットショップから連れて帰ることになりました。
オヤジが文鳥と戯れた1年
子どもって最初は「飼って! 絶対にお世話するから!」と言うのですが、世話するのは最初だけで、そのうちしなくなります・・・。ボクも子どもの頃そうだったので、自分の子どもを責めることなんてできません。というわけで、朝の餌やりやケージのお掃除などは、ボクが主に担っています。
お世話は大変ですが、文鳥の人なつこい性格とこの美しい見た目に癒されて、まったく苦痛に感じません。こちらが口笛を吹けば、それに反応して、彼女も美しい歌声を披露してくれます。ケージから出してあげると、嬉しそうに「ピッピ!」と鳴いて肩に止まりますし、ボクが歩けば後ろからピョコピョコついてきます。
お年頃でもあるため、ボクに対して求愛のダンスやポーズをしきりに向けてきます。こんなにも好意を寄せてくれる相手に対しては、当然こちらも、それなりに深い愛情・愛着を覚えます。これは、相手が人間でも動物でも同じですね。
新しい恋人ができたような、新しい子どもができたような、そんな気持ちで1年を過ごしてきました。
突然の不幸 ー 怪我で壊死してしまった片足
その幸せな文鳥ライフに、突然の不幸が起こりました。
年末年始の帰省のため、いつものペットショップに預かってもらっていたのですが、元日の夜中にペットショップから電話が入り、「文鳥がけがをしたため、救急で動物病院に連れていって処置してもらい、2万円ほどお金が掛かった」という連絡でした。
「2万円」という金額には驚きましたが、詳しいことは迎えに行った際に聞くことになったため、その時はまさか、こんな不幸が待っていようとは想像だにしませんでした。
帰省先から戻って、真っ先に彼女を迎えに行き、その変わり果てた姿に心底ビックリしました。しばらく言葉が出ませんでした。左足が真っ黒になっているではありませんか。
原因は単純で、左足に付けていた個体識別用の金属タグ(「バードリング」「足環」と呼ばれる輪っか状のモノ)がケージの出っ張りに引っ掛かり、定時の見回りまでの数時間、タグだけで身体がぶら下がった形となっていたため血が通わなくなり、その結果、壊死してしまったのです。ちなみに、タグ(「バードリング」「足環」)とは、以下の写真のようなものです(見難くてスミマセン)。
山階鳥類研究所「渡り鳥と足環」より
当然ながら、「お金を払って預けていたのに・・・」という思いはありましたが、そのペットショップは家族経営で、いつも親切に色んなことを教えてくれていましたし、もちろん悪気などありません。たまたま運が悪かっただけなのです。
逆に、元日の夜中に、急患を受け付ける遠方の動物病院まで連れていき、その後は、衰弱して体重も激減した彼女の世話を一生懸命やってくれたわけですから、感謝すべきなんじゃないかと思い直しました。動物が好きでも何でもない人にとっては、「たかが文鳥1匹のために、そこまでやってくれるの?」というレベルかもしれません。
なので、「ホテル代は結構です」というショップ側の厚意に感謝しつつ、治療代の2万円だけを置いてショップを後にしました。
後悔と懺悔
でも本当は、モヤモヤが残っていました。ペットショップに対してではなく、タグにです。
1年前に我が家に連れ帰ることになった時、「このタグ、必要なんですか?」と聞いたら、「万一逃げてしまった場合の識別や、繁殖の際に使用します」と言われて、「そんなもんか」と納得したような気分になったのですが、それから1年、「何かに引っ掛かりはしないか?」という心配がほんの少しだけ、でも常に、心にありました。
そして、その心配が間違いでないことが分かったのです。
ペットショップからの帰路、念のため、近所の小動物専門の動物病院に診せに行ったのですが、そこでこう言われました。
「まだ、こんなタグを付けたまま販売してるんですね」
・・・「えっ!?」
「悪しき慣習なんですよ。このタグって。この手の事故は昔からよくあるのに、なぜかペット業界では、タグを積極的に外そうとしないんですよね。」
「単体で飼って、繁殖用でもないのなら、個体識別の必要はありません。万一逃げた場合と言いますが、外の世界で生きていける鳥ではありませんので、その点でも不要なものです。」
とのこと。
あああ、なんということだ。タグに違和感を覚えたあの日あの時に、もっとちゃんと調べて、リスクの大きさを判断してやるべきだったんです。
この動物病院には、彼女の爪切りをしてもらうため何度か来ようと思いつつ、結局はこんな取り返しのつかない状態になって初めて来ることになりました。こんなことになる前に一度でも来院していれば、その時点でタグの危険性を教えてくれていたでしょうし、自分の中の違和感とも合致するため、即座に外してもらっていたはずです。
獣医さんの話を聞きながら、後悔の念ばかりが湧いてきます。
そして、自分の判断の甘さで片足がダメになってしまった「おもち」に対して、懺悔の気持ちでいっぱいです。愛する恋人、愛する子どもの片足が壊死で失われようとしています。それも自分のミスで。悔しいとか無念とかの気持ちより、本当に申し訳ないという気持ちです。
タグ(バードリング、足環)の要/不要はしっかり判断を
これから文鳥を飼おうとしている初心者の方には、このような事故が普通に起き得ることを是非知っておいてもらいたいです。
そして、ペットショップや獣医さんとも相談しながら、その文鳥を育てていくのにタグ(バードリング、足環)が本当に必要なものなのかどうかをしっかりと判断して、不要ならば外すように心掛けてもらいたいです。
こうやって記すことで、少しでも多くの文鳥の足や命が守られることを心から願います。
ただいま経過観察中
動物病院では、主に以下のようなことを言われました。
- おそらく壊死した足は、やがて脱落する(残るケースも稀ながらある)
- 自分でイジって出血する場合があるため、イジリがひどい場合はカラー(エリザベスカラー)も検討するが、おススメはしない
- 自然に脱落せず、出血がひどい場合などは、レーザメスで切断処置する
- 片足になっても鳥は元気に生きていける(自然界では致命傷だけど)
- ただし、残った足への負担が大きくなるため、止まり木を太いものに変えるなど、いくつかの対策は必要になる
- 壊死した足が奇跡的に「杖」として残ることを祈りましょう
最後に、10日分の化膿止めの薬を処方してくれました。
後悔と懺悔の気持ちはいつまでもなくなりませんが、こうなってしまった以上はその事実をしっかりと受け止め、「おもち」がこれからも楽しく健やかに生きていけるように環境を整えてあげなければなりません。
帰宅して、いろんな工夫を凝らしましたので、参考までにメモっておきます。
住環境
ケガや病気を負った鳥を自宅で看護する場合の住環境を動物病院で教えてくれました。
ケガを負っているため、基本的には放鳥を制限し、安静にさせることが重要です。そのため、いままで通りの大きなケージは不要です。お家が大きすぎると動き回るため、逆に回復が遅れます。
そこで、百均で買った小型の収納ボックスにドリルで空気穴をいくつも開け、それを仮のお家にしました。夜は、その上から段ボール箱をかぶせて、熱を逃がさないようにしました。段ボール箱にも、空気穴をいくつか開けました。
また、サーモスタットやセンサーなんかは持っていないため、温度計を設置して、最初2~3日は、夜中も1~2時間おきに温度と湿度を確認するようにしました。
保温
鳥は高体温な生き物で、その温度を維持するのに大量のエネルギーを使います。弱った鳥は食欲低下で体温も低下しがちになるため、特に冬場は、しっかりとした保温が必要です。
推奨温度は 28~32℃、推奨湿度は 40~60% だそうです。ただし、適温は鳥の状態にもよるため、エサの食べ具合や体重の変化、目つきや活動量など、大きな変化がないかどうかを常に観察しておく必要があります。素人にはなかなか難しいことですが、とにかく小さな変化も見逃さないよう心掛けます。
うちにはペットヒーターがあり、去年の冬はそれを利用したのですが、近くに可燃物がないか注意しないとダメですし、いまいち使いにくいんですよね。ほかに良いものはないかと家の中を探していて、こんなのを見つけました。
40cm × 40cm ぐらいの人間用のホットマット(ホットカーペット)です。これの上に巣箱をおき、その上に段ボール箱をかぶせて一晩様子を見てみたら、巣箱内の温度が丁度よい感じだったので、これで暖を取ることに決めました。ペット用のホットカーペットやパネルヒーターなどをお持ちお場合は、それも有効ですので、いろいろ試してみましょう。
冬場ですので、夜中~明け方に掛けてはかなり冷え込みます。ですので念のため、夜中の2時にエアコン(暖房)がオンとなるようにタイマーもセットしています。
エサと水と薬
エサを食べてくれると、ひとまず安心できます。ただし、鳥は食べている「フリ」をしているだけのこともあるため、以下に記す「体重管理」がとても重要になります。
動物病院でもらった化膿止めの薬は、水に溶かしてあげる飲用タイプのものだったのですが、水が黄色くなるため、最初は警戒して飲みませんでした。どうにかならないかと考え、白色の容器を透明の容器に変えると、黄色が目立たなくなって少し飲むようになりました。
でも翌日、体重を量ってみると激減していて、目つきもうつろになり、くちばしや目の周りの特徴的なピンク色が薄くなっていることに気付きました。エサは食べていましたので、もしやと思って薬入りの水を手のひらに垂らしてあげてみると、待っていたかのようにゴクゴク飲みました。やはり、ちゃんと水を飲んでおらず、脱水症状になりかけていたみたいです。
しっかり水を飲むとすぐに体重は戻って、元気になりました。鳥にとって、水はかなり大切なんだと分かりました。それからは、エサよりも水の飲み具合にかなり注意を払うようにしましたし、定期的に手のひらで水をあげるようにしました。
体重管理
ケガや病気を負った鳥を看護する上で、最も大事なことだと思います。ですので、毎日、調理用のはかりを用いて1g単位で体重を量り、記録していきます。うちでは、朝・昼・晩と1日3回、0.5g単位で量るようにしました。
ケガする前は 29gだった体重が、ペットショップを出るころには 24gまで落ちていました。それでも回復したぐらいですから、20g近くまで落ちていたのでしょう。動物病院で診てもらってから自宅で体重を記録するようになり、今は 25~26gで落ち着いています。とても元気に過ごしていますし、あまり増えすぎても足の負担になるでしょうから、今のところはこれぐらいで良いのかなと思っています。
注意点として、鳥の体重は、人間以上に容易く増減します。たとえば、エサを食べる前に 24gだった体重が、エサの後に量ると 26gになっていたり、水の場合も同じです。1回の食事だけで体重の1割近くの変化があるわけです。人間には考えられないことです。
ですので、毎日体重を量る上で、1~2g程度の増減は普通にあるものと思っておいた方が良いでしょうね。これを知らないと、増減のあまりの大きさに最初は驚かされ、かなり焦ってしまいます。
ただし、体重減少が進行するような場合は、早めに病院へ連れて行きましょう。
文鳥の今後
獣医さんによれば、壊死した足はやがて脱落するだろう、とのことでした。その時期は個人差(個鳥差?)もあり、ケガから3週間ほどで脱落した例もあれば、2カ月後に脱落した例もあるとか。ケガの程度やその後の環境に大きく左右されるのでしょう。
奇跡的に、壊死した足がそのまま固まり「杖」として残った例もあるそうです。彼女にとってはその方が身体への負担が少ないでしょうから、今はそれを願っています。
いずれにしろ、どんな結末になろうとも、今まで以上に目いっぱい愛して、楽しい一生を過ごさせてやりたいと思います。それが、せめてもの償いになるかな、と。文鳥の寿命は長くて 10 年と聞いたことがあります。少しでも長く、我が家の一員であって欲しい。
子どもの頃は、動物に対してこんなにも感情移入することはなかったのに、不思議なものです。子育てを経験したからでしょう。その子どもたちも、今回の件では親身になって彼女の世話をしてくれていますし、子どもながらに色んなことを感じているようです。その機会を与えてくれたことにも、感謝です。
追記
そんな彼女のために、お家をリフォームしました!