京都を代表する観光地・嵐山。
「嵐山」と聞いてまず思い浮かぶのは、渡月橋やトロッコ列車、竹林の道や野宮神社、あとはメインストリート(本通り)沿いのお店などではないでしょうか?
このような観光地も、もちろんおススメなのですが、長い歴史と風光明媚な自然に包まれた嵐山には、これら以外にも数々の観光スポット・名所が点在しています。
そこで、一般的な嵐山観光では飽き足らない人、嵐山の違った顔を見てみたい人、ほかの人とは少し違う場所を訪れてみたい人などに向けて、嵐山の少しディープな隠れスポット・名所・グルメスポットをお送りしたいと思います。
京都・嵐山観光を計画する際のちょっとした参考になれば幸いです。
落柿舎(らくししゃ)
古くから和歌に詠まれてきた嵯峨野・小倉山のふもと、トロッコ「嵐山駅」から北に歩いて 10分のところに、かやぶき屋根の庵があります。それが、落柿舎です。「らくししゃ」と読みます。
「落柿舎」という庵名は、あの松尾芭蕉の門人・向井去来の「落柿舎記」に、その由来が書かれています。その由来とは、
庭に植わる40本ほどの柿の木の実を都会から来た商人に売ることになり、代金を受け取ったのだが、強風で実がほとんど落ちてしまい、商談がご破算になってしまった
というもの。
この落柿舎は、向井去来が俳句を詠むために結んだ庵であり、本庵の玄関先には、去来の在宅を示す蓑(みの)と笠が掛けられています。俳句好きにはたまらない演出です。
本庵の壁には、去来が定めた5つのルール「落柿舎制札」が掲げられています。酒を飲み飲み、俳諧を大いに楽しむ際の心得のようなものです。
一、我家の俳諧に遊ぶべし 世の理窟を謂ふべからず
一、雑魚寝には心得あるべし 大鼾をかくべからず
一、朝夕かたく精進を思ふべし 魚鳥を忌むにあらず
一、速に灰吹きを棄つべし 煙草を嫌ふにはあらず
一、隣の据膳をまつべし 火の用心にはあらず
また、本庵の前や庭には、向井去来や松尾芭蕉の句碑も立っています。人里離れた静けさの中、縁側から草木越しに見える嵐山の風景を眺めながら、数百年前の俳人たちの思いに心寄せてみるのも悪くないですよ。
常寂光寺(じょうじゃっこうじ)
嵯峨野には、鎌倉時代の歌人・藤原定家が百人一首を編んだ山荘・時雨亭跡が3カ所あります。そのうちの1つが常寂光寺です。小倉山の中腹に寺域を占める日蓮宗の寺院であり、紅葉の名所ですね。
慶長元年(1596年)、豊臣秀吉が建てた方広寺大仏殿の法要(千僧供養)への参加をめぐって日蓮宗大本山である本圀寺(山科区)が2派に分裂しましたが、そのうちの反対派である貫主・日禛(にっしん)が隠居寺として建立したのがこの常寂光寺です。
寺域が幽雅閑寂で、天台四土にいう常寂光土の観があるところから「常寂光寺」という寺号になりました。
当時、その辺りには、藤原定家の木像を安置する祠(ほこら)があったのですが、日禛は、「和歌の神様である定家を見下ろすのは失礼」として、庫裏や本堂の上に祠を移したそうです。
ここでは、歌詠みにとっての聖地である小倉山の雰囲気を存分に味わうことができます。
二尊院(にそんいん)
同じく小倉山のふもとに、もう1つの時雨亭跡である二尊院があります(ちなみに、3つめの時雨亭跡は、「厭離庵(えんりあん)」です)。
重厚な総門をくぐると、「紅葉の馬場」という 100mほどの石段の参道が現れます(写真)。両側に 100本ほどのモミジが植わっており、紅葉の季節はもちろんのこと、季節を問わず凛とした空気を味わえます。
嵯峨天皇の勅願で慈覚大師が承和年間(834~848年)に開いたと伝わっており、その総門は、豪商・角倉了以が 1613年に伏見城の門を移築したものです。
嵯峨天皇の隠居の場として、敵への備えも考えた城塞のような造りになっており、馬をつないでおく「武者だまり」もあります。
本堂から長い石段を上った高台にある時雨亭跡からは、京都市街を見下ろせる気持ちの良い景色が広がっています。
平安時代、紅葉見物や狩りを楽しむ場だった辺りの雰囲気を感じながら、定家が詠んだ歌に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
見渡せば花も紅葉もなかりけり 浦の苫屋の秋の夕暮
御髪神社(みかみじんじゃ)
二尊院から南に 200mほど、トロッコ「嵐山駅」のすぐ北にある日本で唯一の「髪」の神社が御髪神社です。小倉池のほとりにたたずんでいます。
美容師や理容師の国家試験の直前には、全国からたくさんの受験生が合格祈願に訪れますし、かつら製造会社や化粧品会社の関係者もやってきます。そして、社務所の壁には、合格祈願の絵馬や、頭髪が寂しいであろう有名人やハリウッド俳優の絵馬も見受けられます(本物かどうかは分かりません)。
鎌倉時代・亀山天皇のころ、皇居で宝物係を務める武士・藤原基晴が宝刀「九王丸」を紛失した責任を取るために捜索の旅に出て、流れ着いた山口県下関市で三男の藤原采女亮政之が庄屋の女性たちの髪を結って家計を助けたことが起源なんだそうです。
本殿の脇には「髪塚」もあり、「献髪」によって髪の毛を奉納することができます。
- 献髪料として 300円を納める
- 金色のハサミで頭頂部の髪の毛を数本切ってもらう
- 「御髪献納」と書かれた白封筒に髪を入れて祭壇へ
- 祝詞を唱えてもらい、本殿に二礼二拍手一礼
- 祈祷後、封筒が髪塚に納められる
気になる方は、ぜひお試しあれ。
こだわり卵専門店「たまごや」
小倉山のふもとを散策して疲れたら、落柿舎とトロッコ「嵐山駅」の間、嵯峨公園のほど近くに、こだわり卵専門店「たまごや」があります。
兵庫県にある農場の卵を扱う会社のほか、お店の方が京都府内の農場を訪ね歩いて見つけてきた絶品の卵が売りです。1個100円のゆで卵「赤にぬき」の濃厚な味わいを経験してしまうと、ほかの卵が何とも物足りなく感じられてしまいます。
ゆで卵のほか、特性プリンやほかほかの卵かけご飯も👍です。食べればすぐに、人気の秘密が分かりますよ。
ジェラート「新八茶屋」
小倉山のふもとから渡月橋まで戻って、その渡月橋の北詰にあるジェラート店が「新八茶屋」です。
創業は今から80年近くも前で、およそ30年前に売り出した抹茶ソフトは、やがて1日に 4,000個を売り上げる大人気商品となりました。
これだけ人気が出ると、周辺のお店も当然のように真似をするため、次第に埋没していきましたが、そんな中、次に目を付けたのがイタリアの氷菓・ジェラートです。
今から25年ほど前に桜餅風味のジェラートが大人気となり、2010年には、イタリアで開催されたジェラートの国際大会で見事3位に入った本格派です。
そして今年6月、イタリアの別の国際大会に招待され、かき氷のような氷菓・グラニータを出品し、ここでも2位という驚異の結果を出されています。その出品した「雪どけ森のオレンジグラニータ」は、2017年8月から店頭で販売されることになりました。
「一食」の価値ありです。
お猿天国・嵐山モンキーパーク(いわたやま)
次は、渡月橋の南側、外国人に大人気の嵐山モンキーパークです。
以前、訪れた際も、すれ違う観光客の8割ほどが外国の方でした。サルと近くで安全に触れ合えることが、外国では珍しいことなのでしょう。
渡月橋の南詰を西へ 50mほど進むと「モンキーパーク」の看板が見つかります。階段を上って櫟谷宗像神社の境内に入ると、モンキーパークの入口受け付けがあります。高校生以上は 550円、中学生以下は 250円です。
ここから、20~30分ほど山を登れば、お猿さんの天国に到着します。
入口を通ってすぐ、比較的急な階段が続いており、体力に自信のない方はいきなり不安になるかもしれませんが、これは最初だけ。階段を上り切れば、あとは緩い登り坂が続くだけですので、最初だけ頑張りましょう。
途中、「オサルクイズ」が所々にありますので、身体を休めて気分転換できます。
しばらく行くと、ルート案内や、おさるさんとの接し方が書かれた注意事項などの看板があります。これを過ぎて5~10分もすると、おさるさんをちらほら見掛けるようになってきます。
おさるさんを見掛けるようになったら、少し注意が必要です。主な注意事項としては、おさるさんに近づきすぎないこと、目を合わせないこと。この2点を守れば大丈夫です。
小さなお子さんは、目線がサルの目線と近く、目が合いやすいため、少し注意してあげた方が良いかもしれません。必要以上に恐がることはないですが、注意事項を守らなければ、痛い目にあうことも・・・。
しばらく行くと、木立がなくなり、広い所に出ます。ブランコ、シーソー、鉄棒、滑り台などの遊具がそろった広場ですね。小さなお子さんから小学生ぐらいまで楽しめます。
そして、この広場から、もう頂上が見えています。おつかれさまです。
頂上には、たくさんのおさるさんがいて、思い思いの過ごし方をしています。また、景色も素晴らしくて、京都市内を一望できます。京都タワーもよく見えます。
頂上には小屋があって、トイレが完備されており、休憩したり、おさるさんにエサ(バナナ、リンゴ、落花生など)をあげたりできます(1袋100円)。
人間がおり(小屋)に入って、外にサルが群がる様子が、動物園の逆で面白いです。
ボクたちがエサをあげたおさるさんたちに限れば、バナナが人気でしたね。リンゴは、捨ててしまう場合も。舌の肥えたおさるさんです。
エサをあげた後、手洗いできるように水道や石鹸も用意されていますので、衛生面もしっかりしています。スタッフが何人か常駐されており、分からないことや困ったことがあれば親切に応対してくれます。
大人も子どもも、すごく楽しめますよ。
虚空蔵・法輪寺(こくうぞう・ほうりんじ)
渡月橋南詰からモンキーパークと反対の方向へ進むとすぐに、「十三まいり」で有名な虚空蔵・法輪寺が現れます。
「十三まいり」というのは、数え年十三歳に成長した男女が、成人の儀礼として十三歳の厄難を払い、智恵を授けていただけるように虚空蔵菩薩に祈願することです。通常は4月に集団で祈願するのですが、受け付けは年中行われています。うちのムスメAは、10 月にお願いしましたが、この時は我々しかいなかったため、静かな雰囲気の中、ゆっくりとムスメの幸せを祈ることができました。
祈願の後は、後ろを振り返ることなく、渡月橋を北側まで渡り切る風習があります。途中で振り向くと、福が逃げてしまうので、決して振り返らないように橋を渡りました。
そんな法輪寺は、713年に元明天皇の勅願を受けた僧・行基が建てたと伝わっています。山門をくぐると、本堂へと続く長い石段があります。両側からモミジが覆いかぶさり、とても良い雰囲気です。渡月橋周辺のような喧騒がないため、大人に強くおススメしたいスポットです。
そして、興味深いのが「電電宮」です。石段を中腹まで上ると、その社があります。
法輪寺には、古くから雷や稲妻をつかさどる電電明神をまつる電電宮がありましたが、幕末の兵火で焼失してしまいました。戦後、電気や電波の発展に貢献した先駆者の霊を慰めようと、関西の放送局や電力会社などが修理・建設して出来たのが今の「電電宮」です。エジソンやヘルツの肖像もあります。
また、法輪寺の本尊である虚空蔵菩薩は、丑と寅の守り本尊でもあります。毎年全国から、たくさんの丑年・寅年生まれの人がやってきますよ。
石段を上り切った右手、京都市内を一望できる舞台もおススメです。
千光寺(せんこうじ)
渡月橋からモンキーパークを通り過ぎて川沿いに1km弱ほど進んだところで、上に延びる急な石段が現れます。これが、千光寺の本堂へと続く石段です。この石段を 10分ほど掛けて上ると、山門に到着します。
千光寺は、江戸初期に活躍した豪商・角倉了以が、桂川の開削工事で亡くなった人々の霊を慰めるため、1614年に嵯峨中院にあった寺院を移築したものです(「二尊院」のところで書いたように、角倉了以は、伏見城の門を二尊院に移した人物でもあります)。
地元の学校では、社会の時間などに角倉了以やその偉業について勉強する機会があります。それぐらい有名な人です。
写真のように山肌からせり出た客殿からは、美しい山々や保津川の川面を眺めることができ、対岸にある亀山公園のさらに奥には、京都の街並みが見えます。
特に紅葉や桜のころがおススメのすごい絶景なんですが、参拝者の7割が外国人らしいです。日本人もこの素晴らしい景観を是非どうぞ。
まとめ
以上、独断と偏見で、嵐山の少しディープな隠れスポット・名所・グルメスポットを紹介しました。
子ども連れなら、日本で唯一の「髪」の神社である御髪神社や嵐山モンキーパークがおススメです。たまご専門店や、便利な場所にあるジェラートの新八茶屋さんでお腹を満たしながらってのもいいですね。
大人だけなら、俳句や百人一首の雰囲気を目一杯感じられる落柿舎、常寂光寺、二尊院などがおススメです。また、普段は観光客が少なく、落ち着いた雰囲気を堪能できる法輪寺や千光寺も良いですね。
京都・嵐山の思い出作りの参考になれば幸いです。