仕事で外国企業(自動車部品メーカなど)の動きを見ていると、以前は特許を日本にも必ず出願していたのに、今は日本に出願せず、中国やインド、インドネシアなどの新興国に優先的に出願しているケースを見掛けることが多くなりました。
これらの新興国は、もともと人口が多い上に、分厚い中産階級が育ってきており、市場としてかなり魅力的になっている一方、日本は人口減少や車離れが進み、市場としての魅力が低下して、特許も後回しにされつつあるのかなと感じます。
一方、1年ほど前に流行ったこの本によれば、
人口減少をそれほど悲観する必要はなく、人口減は生産性の向上でカバーできれば問題ないのかな、とも思います。実際、北欧などの人口が少ない国は、国内市場に頼るわけにもいかないため、積極的に海外市場を開拓することで、国力を維持できていますね。
とはいえ、大規模な国内市場があれば、それだけ経済は活性化され、海外まではなかなか踏み出せない中小企業にとっても貴重な収益源となりますし、何より、せっかくの「1億人」という大台をいつか割り込む日が来るのかと思うと、やはり沈みゆく夕日を見ているような寂しさがあります。
人口減少(少子化)の原因
人口減少の主要因である少子化の原因としては、結婚・出産の減少・高齢化、価値の多様化、育児に対する漠然とした不安(金銭面など)、長時間労働、育児環境の不備などなど、いろんな要素が絡み合っています。
確かに、変化が激しいこの時代に、会社や世間からの圧力も強い中、「不確実性」の権化のような乳幼児を育てていくことには、不安しかないかもしれません。戦後にベビーブームが訪れて「団塊の世代」が生まれたのは、「戦争」という不安から解放されたことが大きかったのでしょう。
やはり、少子化問題を解決するには、「子を持つ」ことの障害となるさまざまな不安を少しでも解消していくしかないのかもしれません。
そんなことを思いながら、地元のマイルドヤンキー的な同級生たちの話を聞くと、比較的若くして、価値観が似た者同士で結婚し、地元経済の中で、祖父母や保育園などを十分に利用しながら、子育てを楽しんでいるようにも見えます。
これと比較して、内閣府経済社会総合研究所「経済分析」185号(2011年)の論文「相対所得が出産に与える影響」などを読んでみると、
というシナリオが見えてきて、結局、「大学や企業が集中する都会ほど出生率が低め」というお馴染みの結論になります。
やはり、「大学進学」というイベントが少子化を促進してしまっている側面があるのではないかという気がして、門外漢ながら、諸外国の状況を少し調べてみることにしました。
主要各国の出生率推移
日本と欧米主要国の出生率は、このように変化しています。
内閣府:平成27年版 少子化社会対策白書 より
米国、英国、スウェーデン、フランスは、上下しながらも 2.00 程度を維持しており、主に経済面の政策が寄与しているものと考えられます。
一方のドイツ、イタリア、日本は、長らく 1.50 を下回っていますね。ドイツは、主に移民の牽引で、最近は出生数が増えているらしいですが、それでもまだまだです。
一方、日本とアジア主要国の出生率は、このように変化しています。
内閣府:平成27年版 少子化社会対策白書 より
この中では、日本はまだ高い方ですね。
いずれにしろ、1970 年前後から、各国の出生率は著しく低下しており、今世紀に入ってからは、出生率がさらに低下したグループと、出生率がある程度回復したグループに分けることができます。
主要各国の大学進学率と退学率
一方、世界の主要国の大学進学率は、このような様子です(ちょっと古くて、2010年)。
文部科学省 より
このグラフだけ見ると、日本の大学進学率は、OECD 諸国の中でも「結構低い!」ということになるのですが、このグラフには注意が必要であり、諸外国の数値には、以下のような進学者もカウントされているため、必然的に進学率が高くなっています。
- 18 歳じゃなくても(働き始めた後に)大学に行く人
- 留学生
- 専門・職業学校への進学者
- パートタイムの学生
さらに、特に欧米などは、民間(私学)が教育の門戸開放に貢献してきた歴史がありますので、入学は比較的容易である一方、修了(卒業)は難しい傾向にあります。
たとえば、OECD 諸国の大学退学率を示したこちらのグラフからは、
社会実情データ図録 より
日本の退学率が、他国に比べて極端に低いことが分かります。つまり、日本人は、大学に入った 10 人のうち、9人が確実に大学を卒業していることになります。
主要各国の大学「修了率」
以上のようなことを踏まえて、主要国の大学の修了率(卒業率)が、OECD ライブラリで提供されており、こちらがその統計グラフです。
黒色の棒グラフが「高等教育の修了率」、水色の棒グラフが「留学生を除外した修了率」、青色の棒グラフが「30 歳未満の修了率(留学生を除く)」となります。
日本は、青色の棒グラフがありませんが、30 歳以上で大学を出る人の割合はごくわずかですので、水色の棒グラフとほぼ同じ結果になります。
この図から、青色の棒グラフ(日本は水色)を比較すると、日本の修了率が圧倒的に高く、スロベニア、デンマークと続いていることが分かります。
つまり、30 歳未満の若さで高等教育を修了する日本人の割合は、諸外国と比較して圧倒的に高いことが分かります。
このグラフには載っていませんし、詳細を調べたわけでもありませんが、韓国や台湾、シンガポールなど、一般的に教育熱心と言われているアジア諸国でも、日本に近い「修了率」となっているのではないかと予想しています。
出生率と大学「修了率」の相関
以上から、「大学の修了率が高いほど(高学歴ほど)出生率は低くなる」という相関関係が、ひょっとして外国にも当てはまるんじゃないかなぁ、という気がしてきます。
ちなみに、スロベニアとデンマークの出生率を見てみると、このような感じです。
世界経済のネタ帳 より
スロベニアは、2004 年ごろまで出生率がかなり低空飛行していますし、おそらくは同年の NATO や EU への加盟で社会が安定し、それで出生率が回復したものと考えられますが、それでも依然として 1.6 を割り込んでいます。
デンマークも、いわゆる幸福度ランキングで上位を占める北欧の中では、出生率が他国よりも 0.1~ 0.2 ほど低いようですね。
もちろん例外もたくさんあるんでしょうが、やはり学歴が高くなるほど、経済的には多少なりとも余裕が生まれるものの、それ以上に「子を持たない」方向の要素が増えていく傾向にあるとも言えそうです。
「中途半端な大卒」の弊害と対処
日本は、子どもの人口が減り続けているのに大学は増え続けた結果、「大学全入時代」に突入しています。希望した誰もが大学に入れる時代です。
「誰もが高等教育を受けられる」といえば聞こえは良いのですが、明確な目標もなく、特に苦労せずとも「とりあえず」大学に入り、90%以上が律義に卒業し、「大卒」というヘンなプライドだけが醸成されたあげく、気が付けば、大学に行かなくても身に付く程度の戦力で社会に出ていく時期を迎えてしまうケースが多いんでしょう。
特に、地元を出て都会の大学に進学すると、ヤンキー的な枠組みから外れてしまい、同じ水で育った価値観を共有したり、子育てに両親の協力を期待したり、といったことが難しく、低賃金なのに物価だけが異様に高い、という事態に巻き込まれ、結婚・出産など必然的に遠のいてしまいます。
そうやって「何となく」生きるくらいなら、明確な目標を持った上で、中卒や高卒で地元で働く方が、本人にとっても、国全体としても、プラスなのかもしれません。
高度成長期は、日本全体が「上へ」という空気だったのでしょうが、これだけグローバル化が進み、新興国の追い上げが激しくなってくると、もはや「全体で上へ」というのは、遠い夢物語に過ぎず、1つの国の中でも「役割分担」をしていく時代がすでに来ていると考えるのが妥当に感じられます。
つまり、大学の数を大幅に減らして、その中でも大学に行く「エリートコース」と、地元経済を回していくことに専念する「ヤンキーコース」とが必然的に生まれるようにするわけです。
「エリートコース」の人には、グローバル競争を頑張ってもらう一方、忙しい中でも子育てができる育児環境や教育環境を整えます。「ヤンキーコース」の人には、エリートコースがもたらす海外の果実も利用しつつ、国内経済を牽引してもらいます。そうする中で子どもが増えれば、国内経済はさらに活性化され、ヤンキーコースにも大きな果実がもたらされるでしょう。
もちろん、両コースの分断が起きては意味がありませんから、教育の機会がすべての人に均等に開かれるように配慮することはもちろん、互いのコースをリスペクトできるように、徹底した教育を施す必要もありますね。
まとめ
「大学を減らす」というと、時代に逆行している印象もありますが、意外に、まっとうな人間生活を送るきっかけになるかもしれませんよ。
〇〇学園のように「新設」している場合じゃありません(地方だから、まぁいいかな)。