
新型コロナウイルス COVID-19(新型肺炎)の影響で世界中が経済に大きなダメージを受けていますが、一方で、ロックダウンや自粛の一部解除も少しずつ進んでいます。今後ゆっくりと経済が再生していくことに違いはありませんが、その速度は国の対応によって大きく異なるのではないかと思います。
そこで、いくつかのデータを参考に、景気回復が早そうな国々を探してみました。
1.Oxford Univ.「COVID-19 Government Response Tracker」
世界保健機関(WHO)は、社会的・経済的コストを最小限に抑える「持続可能な低レベルの感染」を当面の目標として掲げており、そのための6つの指標を発表しています。
- 散発的な感染の抑制
- すべての感染者を検査・隔離する態勢の構築
- 拡大防止のリスク低減(医療・介護現場での防護具確保等)
- 職場での感染予防
- 他地域からのウイルス持ち込み警戒
- 社会全体の理解と参画
これに対して、英オックスフォード大学の Thomas Hale 准教授を中心とするチームは、「Oxford COVID-19 Government Response Tracker」というサイトで各国のコロナ対応を評価しており、その中で、上記6つの WHO指標に対する各国(151ヵ国・地域)の対応状況も発表しています。
⇒ Lockdown rollback checklist: Do countries meet WHO recommendations for rolling back lockdown?
We've updated our lockdown rollback checklist for 1 May.
— Thomas Hale (@thomasnhale) May 1, 2020
How many countries have in place measures aligned with WHO recs for easing lockdown?
Some forward movement since last week, but large majority still not close to meeting WHO recshttps://t.co/y9F1yLOM7w pic.twitter.com/4Lg2ZTgNWd
指標への対応が進んでいるほど、ロックダウン解除が早く、国内景気の回復も早くなることが予想されます。資料を見てみると、上記6つの指標のうち、3と4はデータがないため、実質的にはこの2つを除く4つの指標での評価となっていることが分かりますが、各国の状況を俯瞰的に眺めるのに丁度良いデータではないかと思います。
4指標による総合評価のランキングを日本語で書き直してみると、以下のようになります。
1 | トリニダード・トバゴ |
2 | クロアチア |
3 | 香港 |
4 | アイスランド |
5 | スロバキア |
6 | コスタリカ |
7 | ボツワナ |
8 | ヨルダン |
9 | 韓国 |
10 | 台湾 |
11 | タイ |
12 | パプアニューギニア |
13 | モンゴル |
14 | カーボベルデ |
15 | ミャンマー |
16 | スロベニア |
17 | アルバニア |
18 | リビア |
19 | ブルキナファソ |
20 | オーストラリア |
21 | インド |
22 | ウガンダ |
23 | ザンビア |
24 | ベネズエラ |
25 | ギリシャ |
26 | UAE |
27 | ルワンダ |
28 | ケニア |
29 | 南アフリカ |
30 | エクアドル |
31 | コロンビア |
32 | ルーマニア |
33 | ガボン |
34 | チリ |
35 | スリランカ |
36 | キルギスタン |
37 | アルバ |
38 | トルコ |
39 | ガーナ |
40 | シェラレオネ |
41 | ジブチ |
42 | カナダ |
43 | モザンビーク |
44 | グアム |
45 | ニュージーランド |
46 | マダガスカル |
47 | ペルー |
48 | マカオ |
49 | パナマ |
50 | ベリーズ |
51 | マラウイ |
52 | バミューダ諸島 |
53 | オマーン |
54 | クウェート |
55 | セルビア |
56 | ドミニカ共和国 |
57 | イスラエル |
58 | ポルトガル |
59 | イタリア |
60 | 中国 |
61 | アンドラ |
62 | パラグアイ |
63 | サウジアラビア |
64 | ベトナム |
65 | ボスニア・ヘルツェゴヴィナ |
66 | エストニア |
67 | グアテマラ |
68 | ハンガリー |
69 | インドネシア |
70 | ナミビア |
71 | パキスタン |
72 | アルゼンチン |
73 | モーリシャス |
74 | フランス |
75 | モロッコ |
76 | スペイン |
77 | バーレーン |
78 | ジャマイカ |
79 | ウルグアイ |
80 | ホンジュラス |
81 | カザフスタン |
82 | エルサルバドル |
83 | ニカラグア |
84 | 米国 |
85 | カタール |
86 | ナイジェリア |
87 | ベルギー |
88 | バルバドス |
89 | フィリピン |
90 | ウクライナ |
91 | ルクセンブルグ |
92 | シンガポール |
93 | バングラデシュ |
94 | チェコ |
95 | オーストリア |
96 | モルドバ |
97 | ボリビア |
98 | エジプト |
99 | ノルウェー |
100 | フィンランド |
101 | シリア |
102 | アンゴラ |
103 | プエルトリコ |
104 | デンマーク |
105 | 日本 |
106 | コンゴ |
107 | ブラジル |
108 | ポーランド |
109 | ロシア |
110 | ジンバブエ |
111 | マレーシア |
112 | レバノン |
113 | エチオピア |
114 | メキシコ |
115 | キプロス |
116 | ラオス |
117 | オランダ |
118 | スイス |
119 | イラク |
120 | ブルンジ |
121 | キューバ |
122 | サンマリノ |
123 | パレスチナ |
124 | ブルガリア |
125 | アイルランド |
126 | ニジェール |
127 | カメルーン |
128 | マリ |
129 | ドイツ |
130 | グリーンランド |
131 | スウェーデン |
132 | タンザニア |
133 | ブルネイ |
134 | 南スーダン |
135 | アゼルバイジャン |
136 | ウズベキスタン |
137 | セイシェル |
138 | ドミニカ |
139 | チュニジア |
140 | スーダン |
141 | ガンビア |
142 | コソボ |
143 | エスワティニ |
144 | ガイアナ |
145 | アフガニスタン |
146 | レソト |
147 | チャド |
148 | 英国 |
149 | モーリタニア |
150 | アルジェリア |
151 | イラン |
1位がトリニダード・トバゴ、最下位(151位)がイラン、ということになります。対応状況の合格点を 80点とするなら、それを満たしているのは 20位のオーストラリアまでです。各国の色は、ボクが独自に付けたものであり、桃色がG8各国、黄色がG20各国(G8除く)、青色が主要なアジア諸国、緑色がその他の気になる国、です。
上位の各国は、指標1(感染者数と死亡者数)が大きく寄与して高得点となっているわけですが、特に新興国や途上国の場合は、そもそも全体的な感染を追跡できておらず、指標としてどれだけ意味があるのかなと、疑問に感じなくもありません(とは言え、大規模な感染が「見えていない」ということは、経済を萎縮させる「恐怖」が見えていないわけですから、結果的に国内景気にとってはプラスに働くとも考えられます)。
このデータから、民主的にしろ強権的にしろ、香港・台湾・タイといったアジア諸国、韓国・オーストラリア・インドといった G20諸国が比較的早く、コロナ禍から立ち直れるのかもしれません(ただし、韓国のように、コロナ以外の低迷要因も当然、考える必要があります)。
一方、桃色のG8各国は、最も上位のカナダですら 42位ですから、立ち直りはかなり厳しいんでしょうね。大規模な感染が「可視化」されていることで、そのリスクを無視するわけにもいかず、その点が難しいところです。
2.生活保障(所得補償 → 社会保障)
現在、需要減が集中しているのは、外食・文化・観光・スポーツ・アパレルといった不要不急産業です。これは各国共通のことでしょう。お金がなくて需要がなくなったのではなく、ロックダウンや自粛によって(半)強制的に需要が抑えられているのです。
逆に、これらの産業の生産能力さえ維持しておけば、コロナ騒動の終息後、経済は割りとすぐに回復可能となるはずです。なので、一番効果ありと思われるのは、こういった産業に従事する方々への所得補償です(日本は、全国民に10万円を配ることになりましたが・・(*'▽') )。
どの国がどの程度の所得補償を行っているか、詳細なデータが分からないため、ちょっと視点を変えて、「GDP に対する社会保障支出」の割合を利用することにしました。雇用(失業)や医療、住宅などに対する保障の割合であるため、今回のような事態における生活保障とある程度の相関があるのではないかと思われます。
OECD諸国について、上と同じように色付けしてみました(2015年のデータ)。
1 | フランス |
2 | フィンランド |
3 | ベルギー |
4 | デンマーク |
5 | イタリア |
6 | オーストリア |
7 | スウェーデン |
8 | ギリシャ |
9 | ドイツ |
10 | ノルウェー |
11 | スペイン |
12 | ポルトガル |
13 | スロベニア |
14 | ルクセンブルク |
15 | 日本 |
16 | イギリス |
17 | ハンガリー |
18 | ポーランド |
19 | チェコ |
20 | ニュージーランド |
21 | 米国 |
22 | オーストラリア |
23 | スロバキア |
24 | オランダ |
25 | エストニア |
26 | カナダ |
27 | スイス |
28 | リトアニア |
29 | ラトビア |
30 | イスラエル |
31 | アイルランド |
32 | アイスランド |
33 | トルコ |
34 | チリ |
35 | 韓国 |
36 | メキシコ |
やはり、G8各国や欧州(特に、北欧)諸国が比較的上位を占めています。こういった国々では、ロックダウンや自粛が早期に解除されなくても、生産能力を何とか維持しておくことにより、コロナ禍が収束してきた時点でU字回復につなげられる可能性が残ります。
3.集団免疫に進む国々
世界各国がロックダウンや自粛によって感染の爆発的拡大(医療崩壊)を抑える方向で足並みをそろえる中、厳しい規制を敷くことなく、人命を賭した「集団免疫」という冒険に乗り出している国があります。
有名なのが、スウェーデン。
スウェーデンほどは目立っていませんが、ブラジル も同じような道を進んでいます。両国とも現在のところ、感染者数・死亡者数ともに、収束する兆しが見えていません。当然と言えば当然ですね。「集団免疫」は、人口の6~7割が感染してやっと「達成」です。
過去の戦争などの歴史、犯罪発生率、社会のリスク許容度等を含めて、いわゆる「死生観」は国や地域ごとに異なるため一概には言えませんが、「集団免疫」が世界の圧倒的少数派であることに違いはなく、ミクロ的には、人命を犠牲にしてまで経済を優先することへの抵抗があります。
ただし、マクロ的には、流行の第2波や第3波の心配がなくなるため、第1波さえ乗り超えれば、その後は経済を急速に再生可能となる利点があります。一部では、規制を敷いた地域でも、すでに人口の数%~10%(感染確認数の100倍前後)が抗体を持っているという研究結果も出てきており、規制の網をくぐり抜けて少しずつ「集団免疫」が進んでいる可能性もあるわけです。
一方、新型コロナウイルスは、免疫が持続しない可能性も指摘され始めており、もしそれが事実なら、集団免疫を獲得することには何も意味がなくなってしまいます。となると、ワクチンの開発もほぼ不可能となり、症状の悪化を一定程度抑える治療薬が開発されるまでは、感染自体にかなりのリスクが残ることになります。
免疫を獲得できるか否かについては、研究結果を待つしかありません。
まとめ
- 香港・台湾・タイ・韓国・オーストラリア・インドといった国・地域の景気が比較的早く立ち直る可能性がある(当然、グローバル化の網の中にあるため、米国や中国など経済大国の回復がなければ話になりませんが、観光にしろ金融・不動産にしろ製造業にしろ、国内景気が早く整えば、世界経済が持ち直した後の対応も早くなると考えられます)。
- G8各国や欧州(特に、北欧)諸国は、U字回復がカギになる。
- スウェーデンとブラジルは・・・とにかく・・・目を離せない(ブラジルは国内市場が大きいため、仮に「集団免疫」に成功した場合は、予想以上の景気回復シナリオがあるかも)。