「好きなことを仕事にする」というフレーズを最近よく耳にします。
平成時代は、日本の成長がほぼ止まった「失われた 30年」なのに、バブルの夢覚めやらぬ企業や経営層が従来の社会・組織構造のままで利益や成長にこだわった結果、リストラやサービス残業、ブラック企業などの形で労働者たちにしわ寄せが来ました。そのような時代に「好き」を仕事に求めたくなるのは、当然と言えば当然の流れです。
「楽しくない仕事は人工知能(AI)が引き受けてくれるだろう(だから、人間は好きなことを仕事にできる)」という希望的将来観測も少なからず影響してるのでしょう。

でも、「好き」という1軸だけで、仕事を中心とする人生のあれやこれやを論じるのは、少々無理があるように思われます。「好き」だけで人生を走り抜けられればハッピーですが、それが可能なのは一部のラッキーな人だけだと思うのです。
そのように考えつつ、著名な経営者やスポーツ選手、インフルエンサー(影響力ある人)などの生き様を観察し、著書や記事などを読んでいて、ふと思ったことがあります。
それは、「スキ」「デキる」「やりたい」「なりたい」の4軸で仕事や人生を考えれば、多くのことを説明できるんじゃないか、ということです。
そして、ボクら一般ピープルの場合は、自分に「デキる」ことと、その結果としての行動を増やすことによって、仕事・人生の両面で「自分らしさ」に近づいていけるんじゃないか、ということです。
簡単に説明してみます。
「スキ」×「デキる」
能力のある人(「デキる人」)が興味あること(「スキ」)に没頭できれば、それは最高の生き方でしょう。好きなことにはいくらでも没頭できますし、没頭すればするほど、さらに能力も高くなって、他者を寄せ付けません。それが時代とマッチして「仕事」になれば、好きなことで一生たべていけます。
一部のプロスポーツ選手、プロゲーマー、作家、アイドルなどなど、一芸に秀でた人たちは、もちろん本人の努力も大きいと思いますが、基本的には、運良く「スキ」に出会い、それに没頭できる能力を備えていた可能性が高いと思います(時間とともに浮き沈みは当然ありますけどね)。
でも、「スキ」と「デキる」が同じ方向を向いているのは、ごくごく一部のラッキーな人だけであり、ほとんどの人は「スキ」と「デキる」が重なっていません。その状態で「好きを仕事に」を求めすぎると、ちょっとした地獄を見ることにもなりかねないってことについては、こちら(↓)の過去記事に書いた通りです。
「やりたい」×「なりたい」
漫画家に「なりたい」人はたくさんいるでしょうが、大人気漫画『ワンピース』の作者である尾田栄一郎さんの働きぶりを見て、それでも漫画を「やりたい(仕事にしたい)」と思う人は、どれぐらいいるでしょうか。
以前、何かのインタビューか記事で、尾田さんの仕事が紹介されていました。以下のように、ブラック企業も驚くような労働環境です。
- 朝5時から夜中2時まで労働(驚異の 21時間労働)
- つまり、睡眠時間は3時間未満
- 休みゼロ
- 食事は外食か出前中心(1日なにも食べないこともある)
そもそもボクら一般ピープルは、『ワンピース』のような人気作品に出会うと自分も漫画家に「なりたい!」と思ったり、サッカーW杯で世界中の有名選手の活躍を見ると自分も「なりたい!」と思ったりしますが、そのために漫画を描き始めたり、サッカーを始めたりするかと言えば、(もちろん年齢的なこともありますが)そうはしません。せいぜい、子どもに夢を託すぐらいのものです。
結局、「なりたい!」と思うことはよくあっても、「やりたい!」という行動に結びつくことって、ほとんどないんですよね。「なりたい!」と思いながらも、どこかで「自分には絶対ムリ」と決め込んでいるからなのかもしれません。
人気作家に「なりたい!」と言っている人が、実際にはオリジナルの文章を一度も書いたことがない、なんてこともよくあることです。
「スキ」×「デキる」×「やりたい」×「なりたい」の4軸
上に書いた「スキ」「デキる」「やりたい」「なりたい」を4軸として、スーパースター(著名なスポーツ選手、起業家、クリエイター、etc.)と一般ピープルの人生のイメージをグラフで表してみると、以下のようになります(作:ボク)。
子どもの頃は、圧倒的に情報も知識も少なく、何が好きで何をやりたいのかもはっきりしません。少しずつ「デキる」が増え、少しずつ「なりたい」が見えてくる段階であるため、最初は誰もが「デキ・なり」の象限(しかも、原点に近いところ)にいると考えられます。
一般ピープルの人生
その後、成長して摂取する情報量が増えてくると、一般ピープルは、たとえばゲームや本、スポーツなど、「スキ」の対象が増えていきます。
すると、一旦できるようになったものに飽きてきたタイミングなどで、次の「スキ」へと心が移るため、となりの「スキ・なり」象限にも踏み入るようになります。
ところが大抵は、好きになっても行動力が伴わないため「やりたい」とまでは思わず(つまり、消費するだけで生産はしない)、やがて好きになったものも飽きてしまったら、最初の「デキる」へと心が移り、「デキ・なり」象限に戻ることになります。つまり、「なりたい」という気持ちを持ちながら、「デキる」と「スキ」を行ったり来たりします(しかも、割りと原点の近くで)(青色実線矢印)。
サラリーマンを中心とするほとんどの労働者は、「やりたい」よりも「なりたい(たとえば「お金持ちになりたい!」「社長になりたい!」etc.)」ことが心の中心にあり、その中で「デキる」ことと「スキ」なことを行き来することが多く、グラフの上半分に踏み込むことは稀です。上半分に踏み込むには、運や行動力(エネルギー)が必要になりますので、一般ピープルは躊躇してしまいます。
スーパースターの人生

一方のスーパースターは、最初に「スキ・なり」象限に踏み入った時、その「スキ」の方向がたまたま「デキる」とも重なっていた結果、一般ピープルとは異なる輝きを見せ始めることが往々にしてあります。
好きなことができるようになると楽しいに決まっていますから、そこで「やりたい」スイッチが入ると、たとえば「有名なサッカー選手になりたい」というただの願望が「サッカーをやりたい」という現実的な気持ちにシフトしていきますので、それが行動力となって現れます。
そして、その行動が結果に結びつくと、やっていることをますます好きになり、結局、「スキ」と「やりたい」の両者が増える方向(グラフの右上方向)となって、「スキ・やり」象限の中をグングン伸びていきます(赤色実線矢印)。
スーパースターは、誰よりも努力しているでしょうし、自己管理も厳しく行って現在の地位を築いてきたことはほぼ間違いありませんが、それとは別に、最初の取っ掛かりが一般ピープルとは異なるため、グラフの右上方向へと進んでいける運や行動力を元々持っている可能性が高いんじゃないかと思えます。
スーパースターにもいろんな人生の歩み方があるでしょうが、特に若くしてスーパースターになったような人は、赤色実線矢印のような進み方をした可能性が高いのだと思います。
一般ピープルがスーパースターに近づく可能性
ところで、一般ピープルは「なりたい」気持ちだけが先走り、「スキ」と「デキる」の間をウロウロしているばかり、と書きましたが、やりようによっては、少しはスーパースターの境地にも近づけるんじゃないかと思います。
一般ピープルは、残念ながら「スキ」と「デキる」が異なる方向を向いています。もっと言えば、「スキ」と「デキる」がたとえ同じ方向を向いていても、それが時代に受け入れられて「仕事」にならなければ、それで食べていくことはできません。
つまり、一般ピープルの場合は、「スキ」と「デキる」と「仕事」がバラバラの方向を向いている可能性が高いと言えます。このような状況では、「なりたい」という願望は生まれても、それが「やりたい」という行動に結び付く可能性は低いと考えるのが妥当です。いくら好きになっても、「デキる」という実感や成果としてのお金が伴わなければ、なかなか長続きしないからです。
で、どうしたものかと思って、もう一度グラフを眺めていて・・・
青色点線矢印のように、あえてスーパースターと逆の方向に進んでみてはどうかと思うのです。スーパースターは「スキ」が増える方向に進みますが、一般ピープルの場合は、好きかどうかは後回しにして、とにかく「デキる」ことを増やす方向に進んでみます。
「デキる」ことが増えると、それを試してみたくなるのが人間ですから、少し勇気を振り絞ってみれば、「なりたい」というただの願望が「やりたい」という行動に変わって、「デキ・なり」象限から「デキ・やり」象限へと進んで行けそうです。
挫折もあるでしょうが、そうやって行動を繰り返しているうちに、いくつかの「デキる」ことの中で1つでも成果に結び付けば、それを「やりたい」という気持ちがグングン伸びていきます(確率の問題なので、1つも成果に結びつかない可能性も当然あります)。
その「やりたい」気持ちで行動を続けて、成果が積み重なっていけば、やがてはその対象を自然と好きになって「スキ・やり」象限へと移行していき、少しはスーパースターの境地に近づけるんじゃないか、というわけです(このような道筋で「スーパースター」と呼ばれるようになったスーパースターも少なからずいるんでしょうね)。
人生経験豊富な年配者や高齢者がよく、「どんな仕事でも、まずは何年かやってみること」と言うのは、上に書いたような道筋をたどった結果として、他人の評価とは関係のない自分なりの「自分らしさ」に到達できることを長い人生の中で実感しているからだと思います。
※ ブラック企業は、すぐに離れましょう。
なぜ勉強や運動が必要なのか?
子どもに「なぜ勉強しなくちゃならないの?」と聞かれることがあります。
勉強に限らず運動も遊びも、それぞれの分野でスーパースターになれればラッキーですが、そうならない可能性の方が圧倒的に高いと考えるなら、いろんなことを経験する中で「デキる」ことを増やして行動の下準備を整え、一般的なスーパースターの道順(赤色実線矢印)とは異なるルート(青色点線矢印)でスーパースターの境地(自分らしさ)に近づいていけるようにするしかありません。
そのベースとなる知力・体力・知恵を身に付けるため、勉強も運動も遊びも必要です。決して他人のためではなく、「自分らしさ」という自分のためです。
一方で、幼いころから1つの分野に絞り込んでしまうのは、ボクは反対です。それでスーパースターになれる保証などないなら、いろんな分野を広く経験しておく方が、結果的に「自分らしさ」にたどり着ける確率がグンと上がります。
いろいろと身体で経験しておけば、それをベースにいろんな想像力も働きますから、シナジー効果によって、たとえ経験していないことでも「デキる」ことを増やしていけます。その結果、「やりたい」という行動スイッチにたどり着ける確率も高くなるはずです。
「デキる」ことを増やすのは、何歳になってもある程度は可能です。だから、慌てる必要などないと思っています。
「なりたい」よりも「やりたい」を
一般ピープルは、どうしても「なりたい」という願望ばかりに拘泥してしまいますが、「なりたい」よりも「やりたい」を大切にした方が、結果的に「なりたい」対象に近づけるんじゃないかと思います。
たとえば、「宇宙飛行士になりたい」ではなく「宇宙に行きたい(やりたい)」と考えるようにすると、以下のように選択の幅が広がります。
- 宇宙飛行士を目指す
- ほかの分野でお金を稼いで宇宙旅行を買う
- VR 技術を磨いて宇宙を完璧に再現する
これはほんの一例ですが、たとえ宇宙飛行士になれなくとも、「デキる」ことを増やしていけば、別の方法で「宇宙に行く」という夢は叶う可能性が高くなります。
まとめ
一般ピープルは一般ピープルなりに、「デキる」を増やせば行動が増え、行動が増えれば「やりたい」が見つかり、「やりたい」に没頭すれば「スキ」になって、やがて「自分らしさ」にたどり着けるんじゃないか、という他愛もない話でした。