敏感の彼方に

HSPエンジニアがお送りする、前のめりブローグ

キンコン西野氏『新世界』でも「革命のファンファーレ」はまだ鳴らない

 

 

お笑いコンビ・キングコング西野亮廣さんの 2018年11月に発売されたビジネス書『新世界』が、早くも全ページ無料公開されました。普通なら驚くべき行為ですが、西野さんのこれまでの活動を知っている人なら、「さもありなん」というところでしょうね。

 

『革命のファンファーレ』との類似点

1年ほど前に、同じく西野さんの著作である『革命のファンファーレ』を解読しましたが、共通する内容は散見されるものの、1年でかなりパワーアップしている印象です。

 

とは言え、新たに発売された『新世界』を読みながら書き留めた感想を記事にしようと思って上の1年前の記事を読み返してみたら、自分でもびっくりするくらい、感想が重なることに気付きました。それぐらい、共通する主張が含まれています。

 

特に第1章「貯信時代」は、クラウドファンディングのことが中心になっているのですが、「信用があればお金に困らない(=評価経済社会)」という主張は、『革命のファンファーレ』に書かれていることと基本的に同じであり、視点が少し異なるだけですので、『革命の~』のおさらい的位置づけです。

 

『革命のファンファーレ』との相違点

ただ、第2章「オンラインサロン」からは、少々趣きが異なります。この章は、西野さんが運営している日本最大のオンラインサロン「西野亮廣エンタメ研究所」の紹介が中心なんですが、その中で日々繰り広げられる様々な企画やプロジェクト、将来構想、さらにはサロンの運営ノウハウも綴られており、とても興味深く読ませてくれます。あまりにも紹介にページを割いているので、どこかのレビューでは、「サロン勧誘のための書だ!」などと揶揄されているぐらいです。

 

実際、西野さんの活動をあまり知らない人や、SNS を追いかけているわけでもない人にとっては、すごく新鮮な内容で、サロンがすごく魅力的に映るんでしょうが、ボクは少し違う見方をしました。

 

1年前の『革命の~』も今回の『新世界』も、「読者の行動を促す一冊」という点では同じであり、西野さんの「行動力」と、その経緯を上手く説明する「文章力」が絶妙に組み合わさって、やる気に火が付く読者も少なくないでしょうが、両者で決定的に異なるのは、『革命の~』が「やってみなはれ!」の書であるのに対して、『新世界』は「一緒にやりましょう!」の書となっている点です。それは、本書を最後まで読んで、ひしひしと感じたことです。

 

『新世界』は「一緒にやりましょう!」のスタンス

『新世界』には、以下の図がたびたび登場します。本書の「キモ」となるグラフです。

新世界 革命のファンファーレ 象限 信用 認知

 

西野さんも属する「象限B」の人たちは、認知度も信用度も高いため、「広告収入」「ダイレクト課金」という2つのルートでお金が集まってくる、ということを表しています。いわゆる「インフルエンサー」と呼ばれる方々ですが、情報弱者を誘惑してお金儲けしているタイプのインフルエンサーは敢えて入れてないみたいです・・・。

 

それはさておき、『革命の~』も『新世界』も、西野さんの基本姿勢は、「象限C」に属する人、つまり「嘘はつかないのに、有名でないがためにお金に困りがちな人」を救ってあげたいという姿勢です。

 

それを『革命の~』では、「やってみなはれ!」というスタンスで行動を促していましたが、その行動に移ること自体が、ボクらのような一般人にとってどれほど高いハードルであるかに気付き、だからこそ『新世界』では、「一緒にやりましょう!」というスタンスになったんだと思います。そして、そのように困っている人たちが集まるプラットフォームとして、「西野亮廣エンタメ研究所」というサロンを利用してくださいね、ということになったんでしょう。

 

実際、こちら(↓)の過去記事にも書いているように、


一般人が「何者か」になろうと思っても、「行動」「運」「余裕」という壁が立ちはだかりますので、誰もが西野さんのように先陣を切って行動できるわけではありません。そもそも、最初から行動に移れる人は、西野さんの書籍など読まなくても、とっくに行動に移っています。

 

逆に言えば、普通の人がいくら西野さんの本を読んだところで、直後には「やるぞ!」となるかもしれませんが、そう簡単には行動に移れませんし、しかもその行動を延々と継続するのはかなり困難です。今回の『新世界』は、そのような踊り場で足踏みしている人たちに寄り添ったものとなっている印象を受けます。

 

「生きる意味」を考えるきっかけ

さてさて、書評なんてものは、批判的に書こうと思えばいくらでも書けるものですし、実際に今回も、最初は批判的に書こうと思って読み始めたのですが、西野さんの「行動力」「文章力」「意味付け力」に触れて、批判するのが馬鹿らしく思えるくらい、中身に勢いを感じました。

 

特に、「行動力」「文章力」もさることながら、西野さんの「意味付け力」にも感心するばかりです。直感でパッと行動を開始し、あとでじっくりと意味付けするタイプのようですが、どんな行動1つひとつにも、これだけ何層もの意味付けができるわけですから、たとえば「生きる意味」を見失っている人が読めば、強力な意味付けのきっかけにもなりそうな、それぐらい前向きな本です。

 

優しさあふれる経営書

全体を通して、ボクらのような一般人には容易に真似できないことが多く綴られていますので、一般人には「やる気」を喚起してもらう精神論の書という位置付けになりますが、一方で西野さんの行動力や意味付け力、発想力、さまざまなアイデアなどは、経営者/経営層にこそ大きな価値がありそうです。

 

イノベーションのきっかけが「便利の追求」から「娯楽の追求」へと移り変わる世の中で、特にサービス業なんかは、いかに楽しく、いかに発想力豊かに働けるかがカギになります。こういう時代の経営者として、如何に従業員を盛り上げていくか、ということも本書の中で触れられています。

 

弱者からお金を吸い取ろうとする輩が多いこの世界で、発売後すぐに全文公開に踏み切るあたりに、西野さんの弱者への優しさが見られます。それ自体も、彼に言わせれば「信用」を貯めるための一作業に過ぎないわけですけどね。

 

エンジニアとしての感想 

顔出し実名のエンターテイナーである西野さんと正反対の立場から、異なる視点の感想を少し書いて終わります。

 

「貯信」という行為は、顔や名前という「個人」に私生活も含めてネット上に曝け出すことが多いため、その点ではアイドルやタレントに近い生き方です。ボク自身はそのようなことができませんし、同じように向いていない人もたくさんいることでしょう。

 

そのように「個人」を売りたくない人には、技術や知識で武装して闘う生き方もあります。ボクはそのほうが向いているため、そういう生き方をしているだけです。これからは、顔出し実名のエンターテイナーとして生きる道と、匿名で技術や知識を武器に闘う生き方と、その2極に分かれていくんじゃないでしょうかね。いずれの道でも、人に負けない武器を1つ持つか、いくつかの武器を組み合わせてオンリー1になるか、そうやって生きる道を模索していくことになりますね。

 

「貯信時代」というのは、今の日本のような自由社会では信用自体が大きな武器となるポジティブな時代ですが、信用スコアによる格付けが進む中国のように、国家や大企業が個人を管理する便利なツールとなってしまう危険も孕んでいるわけです。そういう点からも、信用を武器とするのか、技術や知識を武器とするのか、国の在り方とも関係する難しい判断です。

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「革命のファンファーレ」はまだ鳴らない

2016年10月に発表された西野さんの『えんとつ町のプペル』は、現在のところ 37 万部という絵本業界では爆発的な売り上げを記録しているようですが、たとえば『そらまめくん』シリーズの著者なかやみわさんなどは、累計 800 万部ですし、故かこさとしさんなんかはもっと多いんでしょう。

 

これまで子どもたちに絵本を 5000 冊以上読み聞かせてきた経験から思うのは、かこさとしさんたちの絵本が子ども目線で作られているのに対して、『えんとつ町のプペル』は大人目線で子ども向きに作った絵本だということです。

 

もっと言えば、たくさんの部数が売れることを前提として作った本であり、西野さんが手掛ける様々な企画やプロジェクトのシナジー効果を生み出すためのノード(結節点)の1つに過ぎない、ということです。今後、『えんとつ町』の続編やその他の絵本も出てくるのでしょうが、それらの大人目線が世間的に息長く受け入れられるかどうかは、ちょっと微妙に感じています。

 

『えんとつ町』の映画公開は 2020 年らしいので、少なくともそれまでは、革命のファンファーレが本当に鳴り響くのかどうか、数々の作品を楽しみながら注目していきたいと思います。

 

 

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