敏感の彼方に

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[三菱ジェット MRJ]2020 年オリンピック以降の理想と現実

 

 

愛知県豊山町に、 航空機をテーマにした2つの展示施設「あいち航空ミュージアム」と「MRJ ミュージアム」があります。

 

「あいち航空ミュージアム」は、日本を中心とする航空機産業の過去や現在を主に学べる施設です。一方の「MRJ ミュージアム」は、国産初のジェット旅客機「MRJ(Mitsubishi Regional Jet)」のテクノロジを紹介する施設です。

 

いずれも、航空機ファンや最先端テクノロジに興味ある人にとっては、垂涎ものの展示物やシミュレータ、見学ツアーやお土産などが用意されています。

 

そんな両施設では、日本の航空機産業の全容を把握することができるでしょう。では、その日本を取り巻く環境(MRJ の競合メーカ)はどのような状況にあるでしょうか?

 

まずは両施設の要点を押さえた後、ライバルの状況をまとめていきたいと思います。

 

 あいち航空ミュージアム

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場所は、その名の通り、愛知県西春日井郡豊山町(県営名古屋空港の中)です。

 

2階エントランスから施設に入ると、1階に展示された航空機を脇に見ながら、まずは、世界と日本の航空機の歴史を振り返ることができます。模型やパネル展示、飛行の原理などを学べるサイエンスラボが用意されています。

 

1階に降りると、零式艦上戦闘機 五二型甲(日本が誇る戦時中の名戦闘機「零戦」)、日本が戦後初めて自主開発した旅客機「YS-11」のほか、三菱重工が開発した「MU-2」、小型ビジネスジェット「MU-300」、ヘリコプタなどが展示されています。

 

その他、計器類の展示、3D シアター、フライトシミュレータなどの体験型設備も用意されており、また、ミュージアムショップもちゃんとあります。各種グッズや模型、カレンダなどが販売されていますので、お土産もお忘れなく。

 

MRJ ミュージアム

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一方の MRJ ミュージアムは、今まさに開発中である国産初のジェット旅客機「MRJ」について、見学ツアーと展示物を提供しています。

 

場所は、愛知県西春日井郡豊山町大字豊場(あいち航空ミュージアム内)。

 

ツアーは、ネットでの完全予約制であり、小学生以上しか入れないので注意が必要です。ツアーの構成は、展示施設見学(約60分)、最終組立工場見学(約20分:上の写真)、ショップ・フォトスポット巡り(約10分)となっています。

 

展示物は、機体原寸大モックアップ(搭乗可能)、操縦室、客室(シート着席可能)、主翼・垂直尾翼(実物)、エンジン原寸大モックアップなど、とても面白い展示となっています。

 

ショップには、ここでしか買えない MRJ オリジナルグッズもありますので、お土産をお忘れなく。

 

 

MRJ のライバル(海外メーカ)の動向と MRJ の行方

では、MRJ を取り巻く環境を見ていきましょう。

 

国産初のジェット旅客機である「MRJ(Mitsubishi Regional Jet)」を開発しているのは、三菱重工業や三菱商事、トヨタ自動車などが出資する三菱航空機です。

 

MRJ は、「Regional Jet」 という名の通り、航続距離 2,000 ~ 4,000 km程度の近距離輸送用の航空機です(日本から 2,000km は台湾辺り、4,000kmはベトナム辺り)。

 

この分野では、カナダのボンバルディア(Bombardier)やブラジルのエンブラエル(EMBRAER)が大きな市場シェアを握っています。かなりの強敵です。

 

この2社に挑戦する形の MRJ は、PW(Pratt & Whitney)社の次世代ターボファンエンジン PW1000Gシリーズを搭載して排ガスや騒音を抑えるとともに、炭素繊維複合材料(CFRP)を機体の一部に採用して、燃費性能の良さをアピールしています。

 

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当初、MRJ は、2013年の初号機納入を予定していました。

 

PW 社の次世代エンジンを競合他社に先駆けて搭載することにより、それを強みとしてニッチ市場に分け入る目論見でした。

 

しかし、設計変更や製造工程の改善、試験項目の見直しなどによって、5回の延期を余儀なくされ、現在の初号機納入予定は 2020年半ばとなっています。東京オリンピックの前後です。

 

このように開発・納入が遅れている中、同型のエンジンを搭載したボンバルディアやエアバス(仏)の機体がすでに就役を開始してしまっています。

 

さらに強敵なのが、エンブラエルの E175-E2 です。

 

この機種は、航続距離が 3,815km、座席数が 88 であり、MRJ(MRJ90LR)と航続距離、座席数ともにほぼ一致しています。納入予定も 2021年と近く、旧型機(Eシリーズ)が 1,000 機近い実績を挙げていることから、かなり強い競合です。

 

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また、同じ E2 シリーズの E190-E2(97~106席)も開発が進んでおり、2018年に初号機の納入が予定されています。

 

以上のように、MRJは、5回の延期の間に、先行の強みがすっかり失われてしまっている感があります。受注数も伸び悩み、低空飛行を続けています

 

そして、もう1つの脅威が中国です。

 

中国の実質的な国策会社である中国商用飛機は、2008年に設立された若い企業ですが、巨額の資本投入を受け、急速に技術力を高めています。

 

同社が開発した ARJ21 は、航続距離が 2,225~3,700 km、座席数が 78 ~ 90 であり、こちらも MRJ とほぼ競合しています。

 

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ARJ21 は、国内線で 2016年6月から運用を開始しており、着々と実績を重ねています。2017年7月には、国内を管理する中国民用航空局から生産ライセンスを取得済みです。また、同社サイトによれば、すでに 20 社から 433 機を受注しているとのこと。20 社の詳細は分かりませんが、国内の航空会社が大半であり、残りは、中国の安全基準が認められたアフリカやアジアなど一部の国の会社と言われています。しかし、受注数だけ見ると、MRJ に匹敵する数です(MRJ は7社から 407 機受注:2018年1月現在)。

 

世界市場に進出するには、欧米の空を飛ぶための証明(型式証明)を取得する必要がありますが、中国にはそのノウハウがあまりなく、高い安全性を証明するのは難しいと言われています。

 

しかし、欧米の航空安全当局への働きかけを強めており、やがて証明を取得できた暁には、国内での実績と低価格が強みとなって、知名度が一気に高まる可能性もあります(ARJ21 は当初、騒音や振動が激しく、燃費も悪くてランニングコストが高いと言われていましたが、改良計画も進んでいます)。

 

また、中国では、ARJ21 より大きな C919(168席)が 2017年5月に試験飛行を成功させており、11月には、101 機が上海から各都市への飛行を成功させた模様です。さらには、大型の航空機(280席)もロシア企業と開発しているようです。

 

このように、空の覇権を制するため、国を挙げて小型機から中大型機まで世界に真っ向から挑んでいる姿を見ると、型式証明の取得も存外早く実現するのではないかと思えてきます。少なくとも国内路線については、自前の航空機で賄えるようになりつつあります。

 

まとめ

航空機製造業は、自動車産業と同様に裾野が広く、その業界で一定の市場シェアを獲得できるか否かは、航空機そのものの製造のみならず、海外メーカに納入している航空部品の優位性にも響いてきます。

 

仕事で MRJ と関わりを持った身としては、2020 年の東京オリンピックと同時に MRJ が商業飛行を開始させる理想的なシナリオを夢見てしまいますが、競合他社の上昇気運を眺めていると、採算ラインと言われる数千機の受注は、現実的にかなり厳しいことが分かります。

 

「MRJ ミュージアム」が、MRJ のメモリアルミュージアムとなってしまわないことを願うばかりです。

 

www.overthesensitivity.com

 

 

 

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