敏感の彼方に

HSPエンジニアがお送りする、前のめりブローグ

私の宝物|イースター島から一緒に帰国した木彫り「モアイ・タンガタ」

 

イースター島 モアイ タンガタ moai tangata

 

 

若い頃、リュック1つで海外をフラフラしていたことが何回かあるけれど、一番印象に残っている旅行は、南米諸国をグルグルと巡った旅だ。

 

その旅では、幼少期から一度は訪れたいと思い憧れていたチリの「イースター島」をハイライトとして計画を立て、それを実行することとなった。

 

途中、ボリビアからチリへのアンデス越えでは、「吊り橋効果」を目の前で確認するとともに、少子化対策の仮説にまでたどり着くこととなったが、

www.overthesensitivity.com

 

それ以外にも、現地の人々や欧米などからの旅行者、日本人バックパッカーとの出会いはもちろん、置き引き、スリ、盗難、高山病、酔いつぶれなどなど、実にさまざまな経験を重ねながら、なんとかイースター島にたどり着いた。

 

そして、指先が痛くなるのでここでは省略するが、その憧れのイースター島で過ごした数日間というのは、幼いころからの夢が叶った喜びであふれ、体力みなぎる若さも手伝って、周囲 50km ほどの島を歩いて一周したり、レンタカーを借りて一周したり、レンタサイクルを借りて一周したり、何周したかも忘れてしまうぐらい島のあちらこちらに点在するモアイ像や洞窟などを見て回った。

 

毎夜、宿泊先のベッドの上で、その日に巡った遺跡のことを思い出しながら、千年も前の人々が何を思い、何のために、また、1体数トン~数十トンもある石像をどうやって岩から切り出し、モアイ像を建立していったのか、そのことに思いを馳せ、時空を超えた壮大な旅を存分に楽しむことができた。

 

今でも、その当時の光景が夢に出てくる時がある。本当に、夢のようなひと時だった。

 

* * *

 

そのイースター島の滞在2日目の出来事だったと思うのだが、こんな出会いがあった。旅行中に実際につけていた日記から、その部分を書き写してみる。

17時頃、ハンガロア村に戻って、貸し自転車屋を探していたら、木彫りモアイの店のおっちゃんにつかまった。あの木彫り名人「ペドロ」の息子だと言う。他の店との違いは、モアイの像や写真を見て、細部の図柄まで完璧にコピーしているところで、確かに他の店の木彫りモアイを見ると、背中の模様がものによってバラバラだった。この辺の品質を加味して他店より少し値が高い。また、会話の中で「ふんどしモアイ」のことを話したら、モアイばかり集めた作品集の中から Moai Tangata(男)というのを見つけてくれた。オリジナルはパリの H’llemo博物館所蔵と書いてある。確かにふんどしをしている(ラパヌイ語で「ハミ」という)。彼はこれの完全コピーを木彫りで作ってやるという。しかも高級木材マホガニー(ラパヌイ語で「マコイ」という)の樹齢 200年ぐらいのもので作って US$200 と言う。少し高いのでごねると、US$170 になった。まだ高いけど、芸術作品と考えて記念に一つ買って帰るかということで特注してしまった。「写真と全く同じならお金払うからね」と言い残した。因みに、マホガニーはイースター島とタヒチに生息するため、イースター島の原住民がポリネシア系に属することの一つの証しだと言っていた。それにしても、私の島滞在期間の間に彼は本当に作品を仕上げることができるのだろうか?何といっても、どこにも売ってないから作るしかないのだ。

 

木彫り名人「ペドロ」というのは、当時の旅行ガイドには載っていた。木彫りのお土産を作って販売しているお店として紹介されていた。

 

ところが、つい先日、書店で最新の旅行ガイドを繰ってみたところ、そのような店は載っていなかった。試しに Google で「"イースター島" "ペドロの店"」と検索してみても、それっぽい情報は出てこない。この十数年の間に、なくなってしまったのだろうか。

 

ふんどしモアイというのは、特に有名なのが「アナケナ」というビーチに佇む何体かのモアイ像で、ふんどしのような模様が背中に刻まれており、日本人ともつながりが深いモンゴル系の文化が東南アジアやポリネシアを通って、西方からイースター島まで伝わった証拠だ、というようなことを旅への出発前に読んだ記憶がある。

 

パリの H’llemo博物館というのは、その時に見せてもらった作品集に書いてあった文字をそのまま日記に記したつもりなのだが、今あらためて検索してみても、それっぽいのが出てこない。正しく書いたつもりなんだけど、どうも怪しくなってきた。今となっては、それがどこの博物館なのか、確かめようがない。

 

* * *

 

そんな「ペドロの息子」との出会いから3日後だったと記憶しているのだが、その「息子」が、Moai Tangata(モアイ・タンガタ)の木彫りが完成したということで、宿泊先まで持ってきてくれた。それが、今や我が家の家宝にもなっている(と、自分で勝手に思っているが、家族がそう思っているかどうかは分からない)こちら(↓)。

イースター島 モアイ タンガタ moai tangata

モアイタンガタ(正面図)

 

イースター島 モアイ タンガタ moai tangata

モアイタンガタ(側面図)

 

イースター島 モアイ タンガタ moai tangata

モアイタンガタ(背面図)

 

実は、あまり期待していなかったので、完成品を見た時には、作品集に載っていた「Moai Tangata」との酷似ぶりにすごく驚いた。もちろん、料金は喜んで支払った(イースター島は物価がかなり高いので、材料費や工数も考えて、べらぼうに高いとは思わなかった)。「ペドロの息子」も、「Moai Tangata の製作依頼を受けたのは初めてだったが、良い仕事ができた」というようなことを言って満足気だったと記憶している。

 

モアイ像というのはすべて、イースター島の「神」を象徴しており、Tangata(タンガタ)にはマオリ語で「男」とか「人間」という意味があるらしい。確かに、普通のモアイ像というのは、このような(↓)風貌をしているし、実際に土産物店で売っている木彫りのモアイ像も、このような形のものばかりだったが、モアイタンガタは人間に近い姿をしているし、「男」の象徴も立派なものが付いている。だから、気に入って作ってもらったんだけどね。

イースター島 モアイ タンガタ moai tangata

 

ネットで「moai tangata」と検索してみて、一番近いと思ったのが、こちらの「France Today」というサイトに載っている Moai Tangata だ。詳細は登録しないと見えない設定になっているようだが、少なくとも頭部については、かなり似ている。

www.francetoday.com

 

ちなみに、「ペドロの息子」が言うには、モアイ・タンガタのちょんまげは、自分の髪の毛から作った、とのこと。長髪の似合うナイスガイだったが、確かに3日前と比べると髪が短くなっているように感じたので、ホントっぽい。

 

ふんどしは、マホガニー(マコイ)か何かの樹皮で作った、と言っていた。当時は、きれいな仕上がりだったのだが、さすがに十数年も経つと、丁寧に扱ってきたつもりだけど傷みが目立つようになってきた。でも、どこで直してもらえば良いのやら・・・。

 

足の指がない点も、本物と同じように作ってくれてある。なぜ足指がないのか、その理由も教えてくれたはずなんだけど、残念ながら忘れてしまった。

 

フランスの博物館にある(らしい)本物との違いは、首の後ろの穴。これは、ヒモを通して壁にも掛けられるように、「ペドロの息子」があえて作ってくれたもの。また、背中の肩甲骨辺りの模様は、左右対称となるように切り出したもので、かなりのこだわりがあったようだ。確かに、ヘソの辺りを中心として、全身が左右対称の模様となっており、厳かな感じもする。

 

耳と腕が異常に長く、胴長短足の3頭身の神「Moai Tangata(モアイ・タンガタ)」を見たボクは、一瞬で気に入り、特に信仰心が篤いわけでもないけれど、「一生の宝物にしよう!」と思った。

 

どこの店にも売っておらず、本物の1体がフランスの博物館にあるだけで、それを除けば世界に1つしかないモアイ像を日本に持って帰れる喜びがジワジワと広がり、それから日本に帰国するまでの数日間は、小躍りしたくなるような日々だった。

 

* * *

 

 

そうやって小躍りするように帰国した空港では、南米諸国を2カ月近くも放浪し、怪しげな木彫りの人形を持ち帰ったということで、やっぱり税関をスムーズには通れず、別室に連れ込まれて、荷物はもちろんのこと、服の中まで色々と検査された。まぁ、コカインの一大産地でもあるわけだし、当然と言えば当然だ。「タンガタ君」のことは、 「ペドロの息子」との出会いから、完成品を受け取った時の喜びまで、嬉々として税関職員に説明したけれど、その話には特に興味がなかったようだ・・・。

 

* * *

 

あれから十数年。

 

何度か引っ越しを繰り返す中でも、新しい家族が増えていく中でも、「タンガタ君」は、ボクの自宅デスクの一画で、いつもボクらを見守っていてくれる。子どもたちは、以前は「夜に目が合うと怖いから、後ろ向きにしておいて!」と言っていたけれど、最近は景色の一部になったのか、何も言わなくなった。

 

ボクが死んだら、棺桶に一緒に入れて欲しいんだけど、もしも家宝として受け継いでいきたければ、そうしてもらっても全然かまわない。

 

数十年前の幼い自分には、数十年後のデスクの上に、世界に1体しかないモアイ・タンガタのレプリカが置かれていようとは、想像だにできなかっただろう。

 

それを作ってくれた「ペドロの息子」は、今どうしているんだろう? 機会があれば、もう一度イースター島を訪れてみたい。その時は、「タンガタ君」も一緒に連れて、里帰りをさせてあげたいな、などと妄想している。税関には要注意だけどね。

 

Google で「"モアイタンガタ"」と検索しても、何もヒットしない。この記事が、「モアイタンガタ」という日本語でヒットする唯一の結果になるのかと思うと、これまた小躍りしたくなる今日この頃。

 

 

 

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