
2018年、全国高校野球選手権大会(@甲子園球場)もついに第100 回を迎えましたが、過去には、PL 学園・KK コンビ(桑田・清原選手)の活躍、星稜・松井選手の5打席連続敬遠、横浜・松坂投手の延長 17 回死闘、駒大苫小牧・早稲田実の決勝引き分け再試合などなど、これまでに数々のドラマが生まれてきました。
そんな高校球児のドラマは、漫画の世界でも人気が高く、50年以上前から週刊誌・月刊誌での連載が行われ、その種類も、時代とともに「根性もの」「青春もの」「異色もの」「現実もの」という変遷をたどってきました。
そこで、野球漫画(高校&甲子園もの)を種類別・年代別に振り返ってみたいと思います。
根性もの(スポーツは根性だ!)
1960~70 年代に掛けては、根性で野球の道を究める「スポ根」が高校野球漫画の王道でした。現在の「のびのび野球」からは考えられないような「スパルタ練習」を普通に描写しており、時代の流れを感じることができます。
そして、2000 年以降も、その流れは連綿と続いています。
巨人の星
1966 年開始の「巨人の星」は、高校野球を本格的に描いた「スポ根」漫画の代名詞的存在です。今でも、一部に根強い人気を誇ります。
ドカベン
今の 40 代以上で知らない人はいないでしょう。1972 年開始の「ドカベン」は、甲子園 100 年となる 2018 年にフィナーレを迎えるまで、足掛け 46 年(途中9年間中断)もの長きにわたって、野球漫画の金字塔を打ち建ててきました。
大阪・浪商高のキャッチャーとして甲子園を沸かせた香川選手の愛称にもなりましたね。
プレイボール
中学野球漫画「キャプテン」の続編として、初代キャプテン・谷口の高校進学後の活躍を描いた熱血スポーツコミックの名作です(1973 年開始)。中学校の全国大会決勝で負傷して野球を続けられなくなった谷口が、高校でサッカー部に入るところから物語が始まります。
大甲子園
1983 年開始の「大甲子園」は、「ドカベン」の水島新司さんによる野球漫画の集大成とも言われる作品です。面白くないわけがありませんよね。
ダイヤのA
2006 年開始の「ダイヤのA」は、「プレイボール」から時代が下ること 30 年。同じく中学野球を起点として、高校でのリベンジを誓った誇り高き球児たちの熱すぎる物語です。「のびのび野球」が主流の今だからこそ、逆に、「熱血主人公」の懐かしさに惹かれてしまうのかもしれません。
プレイボール2
不朽の名作「プレイボール」の続編として、2017 年に開始となりました。
墨谷高校の新たなストーリーが、すでに幕を開けています。
青春もの(高校野球に青春を賭ける!)
1970 年代は、上に挙げたような「根性もの」が全盛の時代でしたが、1980 年代に入ると、早稲田実・荒木投手の「大ちゃんフィーバー」と時を同じくして、高校野球の中に「青春」の物語を見出そうとする作品が登場し始め、現在もその流れは続いています。
野球部に女子マネージャが欠かせない存在となったのは、この「青春もの」の影響です。
タッチ
1981 年スタートの「タッチ」は、高校野球に男女の「青春物語」を組み入れた原点となる作品です。甲子園出場を夢見る双子の上杉達也・和也兄弟と、幼馴染みの浅倉南が織りなす微妙な三角関係をベースに青春を描いています。
今を輝く女性お笑いタレント「いとうあさこ」さんの原点でもありますね。
H2
巨人やニューヨーク・ヤンキースなどで活躍した松井秀喜さんが石川・星稜高校の選手として、甲子園で5打席連続敬遠を受けたのと同じ 1992 年、「H2」はスタートしました。
同じあだち充さんの「タッチ」は知っていても、「H2」は意外に知られていなかったりします。野球よりも恋愛に、涙したり心が暖かくなったりする作品です。
青空エール
あだち充さんが築き上げた高校野球「青春もの」の流れは、2000 年代になっても脈々と受け継がれており、2008 年に「青空エール」がスタートしました。
吹奏楽と野球の名門・白翔高校で、吹奏楽部に属する小野つばさと野球部に属する山田大介がそれぞれの夢に向かって、青空の下で繰り広げる爽やかな青春ストーリーです。
MIX
「タッチ」や「H2」を手掛けたあだち充さんが、「タッチ」の続編として、2012 年に「MIX」を開始しました。あだちファン垂涎の「ザ・あだち」作品です。間違いありません。
異色もの(美しさだけが高校野球じゃない!)
1970 年代の「スポ根」、1980 ~ 1990 年代前半の「青春物語」に続いて、90 年代の後半からは、高校球児の「清さ・正しさ・美しさ」を逆手にとって、不良球児が活躍する異色の高校野球漫画が世に出てきました。
2000 年代前半に高校野球の参加校数がピーク(4,163 校)を打つのに合わせて、野球漫画も1つの頂に達した時期かもしれません。
Dreams
1996 年スタートの「Dreams」は、野球の才能はあるのに素行が悪くて落ちぶれる主人公のサクセスストーリーです。これまでに挙げてきた野球漫画とはまったく異なる斬新な切り口で、ある意味、冒険的な作品となっています。普通の野球漫画では飽き足らない人に向いているかもしれません。
ROOKIES
ドラマにも映画にもなりましたので、誰もが知っている作品でしょう。1998 年のスタートです。不祥事により腐敗してしまったかつての強豪校「ニコガク」を1人の新任教師が更生により再び甲子園へと導く物語。
甲子園を「聖地」として、そこにたどり着くまでの過程に重点を置いた作品ですね。
現実もの(戦略や心理を詳しく描写するのがトレンドだ!)
漫画に限ったことではありませんが、架空の人物やストーリーがある域まで達すると、今度は「バーチャル」から「リアル」へ近づこうとする力が働きます。
1970 年代までの「根性もの」、1980 ~ 1990 年代の「青春もの」、1990 ~ 2000 年代の「異色もの」という変遷をたどり、近ごろの高校野球漫画に共通するトレンドとしては、「リアル」が挙げられます。
おおきく振りかぶって
2003 年開始の「おおきく振りかぶって」は、高校球児の微妙な心理を丁寧に描いている点が特徴です。そして、気持ちの移ろいからトレーニングの描写まで、すべて本格派の力作です。王道といえば王道かもしれません。
ラストイニング
監督が主人公のちょっと変わった作品で、2004 年に登場しました。試合の戦略や練習方法を丹念に描いており、高校野球の違った側面を楽しめます。
「ROOKIES」と同様に、かつての強豪校「彩珠学院高校」を舞台に、留置所あがりの問題児監督が高校球界の常識を変えていく痛快ストーリーです。
砂の栄冠
2010 年に始まった「砂の栄冠」も、少々変わっていますね。高校野球とお金をテーマにした作品です。好き嫌いが分かれるかもしれません。
バトルスタディーズ
最後は、2015 年開始の「バトルスタディーズ」です。作者の「なきぼくろ」さんは、2003 年夏に大阪・PL 学園の外野手として甲子園を経験しています。
ですので、守備や走塁の細かな技術はもちろんのこと、過酷な寮生活や部内の不祥事に至るまで、経験者ならではの苦しみや笑いを大いに盛り込んだ超リアルな高校野球漫画に仕上がっています。
超絶な体育会系のリアルな世界を覗いてみたい方におススメの一冊です。
まとめ
時代とともに、漫画に対する趣向も「根性もの」「青春もの」「異色もの」「現実もの」と変わってきてはいますが、一球にかける情熱は、時代が変わっても人々の胸を打つことに変わりありません。
同じように、現実の世界で選手が勝負にかける熱い思いも、時代で変化するものではありません。今年も来年も再来年も、甲子園の高校野球は延々と続いていくのです。
さて、昨今の「現実もの」の漫画がピークを打ったら、次はどんなトレンドが待っているのでしょうね。